第51話
何と驚いたことに、その時各幽霊船の甲板上に姿を現した、魔法少女──もとい、魔法
そんな彼らは、幽霊船に乗り込んできた量産型
当然、右腕をメタモルフォーゼさせた駆逐艦の主砲でもって、返り討ちにしようとする
そして、更に──
『『『ウゴアアアアアアアアアアアア!!!』』』
大勢のシロクマたちが一斉に雄叫びを上げるや、その身体に『T−34』という文字が黒々と浮かび上がり、彼らの巨体自体も見る間に変貌を遂げていく。
『『『グルルルルルルルル……』』』
何とそこに現れたのは、紛う方なく、かの第二次世界大戦時の超傑作ソ連製戦車、T−34であったのだ。
「「「──ここに来て、すっげえ『時事ネタ』を、ぶち込んできやがった⁉」」」
まさに今、国防軍の兵士たちの心が、一つとなった。
──とはいえ、ネタ自体がふざけていようとも、その『破壊力』については、確かに本物であった。
シロクマと言えば、殊の外泳ぎが達者であるゆえに、確かに海戦向きの大型生体兵器とも言えて、自由自在に艦艇間を渡り歩きつつ、甲板に上がるや否やT−34に変身して、その頑強な傾斜型装甲とD−5T85ミリ砲 の破壊力によって、駆逐艦型の
特に、最大のネックであった『数の問題』が解消したことにより、戦況は魔法令嬢側に大きく傾き始めたかに思われた。
……ちなみに、T−34に変身したシロクマたちが、我が軍の艦船の甲板上で、何の遠慮もなくギュルギュルとキャタピラを走らせたり、バカスカと戦車砲を撃ったりできているのは、この旗艦ビスマルクを始めとする国防軍の
──いや、むしろそうじゃないと、これまでの駆逐艦型
『……おい、副長を始めとする、のろまな豚のクルーども、安心するのはまだ早いぞ? ──見てみろ』
「「「──へ?」」」
まるでこちらの慢心のほどを見て取ったようにして聞こえてきた魔法令嬢の声に、ホログラム映像を覗き込めば、またしても状況が一変していた。
何と、数はもちろん個体ごとの力量すらも、シロクマ水兵のほうが自分たちより上だと認識した量産型
そうなると、本質的に射程距離には特段の格差がある、軍艦と戦車じゃ勝負にならず、さりとて当方の軍艦の砲門は、すでにほぼすべて潰されているので反撃に使うこともできず、シロクマたちは国防軍の艦艇もろとも、一方的な砲撃に晒されるばかりとなってしまった。
もちろん、肝心要の魔法令嬢が無事のままでいられるはずが無く、敵の航空勢力はすべて、こちらの艦船や大型爆撃機への攻撃をやめて、彼女へと集中的に攻め始めた。
今のところは、同じ魔法令嬢がパイロットを務めている、特設空軍ジェット戦闘機部隊が、文字通りの人間離れした空戦テクニックで、何とか守り抜いているものの、どんどんと新手を繰り出してくる相手とは違って、こちらのほうは燃料が尽きてしまえば、一巻の終わりとなるばかりであった。
──つまり一言で言えば、まさしく『じり貧』の状態であったのだ。
『……しょうがないわね、やはり「最終段階」に、移行することにしますか』
何だかやけに気になる台詞をつぶやくや、魔法令嬢から放たれる魔導力の量が、大幅に増大した。
分析班のクルーが、まるで悲鳴のような声を上げる。
「──マジカルインジケータ、臨界を突破! これより、マイナスゾーンに突入します!」
「ま、マイナスだと、まさか⁉」
『負の魔導力』、その意味するものは──
『……ぐぎぎぎぎぎ、ぐがあああああああああっ!!!』
その可憐なる外見とはあまりに不似合いな、雄叫びを上げるとともに、『彼女』の姿が一変した。
ピンクのフリフリのワンピースドレスは、禍々しいまでに赤黒く染め上げられて、彼女自身も髪の毛が真っ白になるとともに、瞳までもがあたかも鮮血そのままに、深紅へと変わり果てたのであった。
「……悪役、令嬢」
『さあ、人魚姫ども、これからが本番よ、せいぜい楽しみなさい!』
「だ、駄目です、提督、このままでは、あなた自身が、闇に呑み込まれてしまう!」
『……仕方がないの、
「そ、そんなっ!」
『副長、
「へ?……あ、ああ、はい!」
『それでは、「もしも」の時には、ためらわず、
──なっ⁉
そのあまりに悲壮なる台詞に、完全に言葉を失う私を尻目に、『最後の仕上げ』へと移行する、魔法令嬢にして提督殿。
『──さあ、甦りなさい、かつての海の覇者たちよ!』
その『海の魔女』の呼び声に応じるようにして、次々に海面を割って、その巨大なる姿を現す、多数の艦艇。
「……金剛、比叡、霧島、榛名、伊勢、日向、長門、陸奥、しかも何と、空母に改装される前の、加賀だと⁉」
何と、『あちらの世界』の第二次世界大戦時の、大日本帝国海軍の、有名どころの戦艦の揃い踏みであった。
『──くくく、軍艦擬人化ヒロインを気取った
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