第28話
「……『つくりもの』、だと?」
奇跡の生還を遂げたはずの、己の忠実なる
しかし、そんな文字通りの『生みの親』の動揺なぞ少しも忖度すること無く、あくまでも何の感情も窺えない、整い過ぎて無機質な人形のようにも見える
「そうです、私のような軍艦擬人化少女は、見かけ上は幼い女の子の姿をしているために、
「……使い潰す?」
「ええ、今回の要塞攻めを始め、いつもやっておられるように、私を最前線に立たせて敵勢力と直接相対させて、物理的に殴り合わせるのはもちろん、敵地のど真ん中に単騎で放り込んで、ゲリラ的な破壊活動を行わさせたり、いっそのこと正式な戦争状態において、敵の大軍と真正面から戦わせて一気に殲滅させたり、──場合によっては、
──!
「自爆させればいいって、あれは例外中の例外の、やむを得ない仕儀では無かったのか⁉ それをまるで、日常的にやらせても構わないなんて! しかもすべてを、自分の
「
「そうは言っても、おまえにはちゃんと、『痛覚』なんかもあるんだろ?」
「ええ、もちろん。いくら何でも痛覚が無いと、何よりも『兵器』として、敵の攻撃に適切な対応を行えませんからね。──とはいえ、痛いからといって、肉体の稼働にはほとんど支障が無いから、戦闘行為中においては、何ら問題はありませんが」
「……何ら問題は無いだって? ちゃんと人間並みに『痛み』を感じているというのに、おまえが戦闘中に傷つき続けている姿を、僕にただ黙って見ていろとでも言うのか⁉」
「ええ、その通りです」
「なっ⁉」
「いいですか、ようく考えてみてください。つまりこれぞ、
「……へ?」
「ただでさえ、この剣と魔法のファンタジーワールドにおいても無敵レベルの、軍艦としての『攻撃力』を誇っているというのに、基本的にまさしく軍艦だからこそ、少々の物理的攻撃にもびくともしないほど頑丈にできているし、そもそも不定形暗黒生物『ショゴス』で構成されているから、かなり深刻な損傷であっても立ち所に修復されるし、運悪く全壊しようとも、新たに作り直せばそれで済むしで、『防御力』のほうも、まさに完璧ではありませんか? しかもこの『不死』とも呼び得る『絶対再生力』を利用して、この上なき破壊力を有する自爆さえも攻撃力として使用すれば、どのような強敵でも必ず倒すことができるという、まさしく攻守共に敵無しの最強の存在と申せましょう。──良かったですね、
──ッ。
……幸運、だと?
その彼女の一言を耳にした途端、言い知れぬ激情がほとばしった。
──なぜなら、無表情を装っている彼女の顔の裏側には、間違いなくすべてに諦めきった絶望の念が潜んでいることが、見て取れたから。
「ふざけるなっ!」
「あ、
突然両肩をつかまれて、すぐ面前でまくし立てられてしまったために、自称『つくりものの兵器』である彼女らしくも無く、慌てふためく我が
「何が、幸運だ! 自分の召喚物であり錬成物でもある、
「い、痛いです、
「痛いって? それはおかしいな。おまえは巨大な移動要塞やストーンゴーレムの攻撃にも耐えきれる、堅牢さを誇っているはずなんだろう?」
「あ、あれ? そういえば……」
自分の現在の、これまでに無い想定外の状態にようやく気がつき、きょどり始める目の前の『幼い女の子』。
──だからこそ僕は、たたみかけるようにして、言い放つ。
「いいか、その痛さはなあ、肉体的な痛みなんかじゃ無く、『心が傷ついている証し』なんだよ! ──そう、おまえは心の無いつくりものでも兵器でも無く、ちゃんと自分の意思を持ち、自分や他人が傷つくことに痛みを感じることのできる、僕たち人間とまったく変わりのない存在なんだよ!」
「──‼」
僕の心の底からの本気の台詞に、目を丸くして完全に言葉を失う、目の前のちゃんと独立した意思を持つ、人の形をした存在。
「……確かに僕は、自分の身を自分の力のみで守ることのできない、不甲斐ない存在かも知れない。あくまでも『最強の存在』が欲しくて、召喚術と錬金術とを使って、おまえを本人の意思を無視して手に入れたかも知れない。──だけど、これまでずっと、二人で力を合わせて生き延びてきておいて、まったく心を通わせたことが無かったわけが無いじゃないか? もう僕にとっては、おまえは単なるつくりものでも兵器でも手段でも道具でも無く、れっきとした『
「……え? わ、私が、
「そうだ! だからもう、痛い時には痛いと言えばいいし、辛い時には辛いと言えばいいし、たとえどうしようもないピンチだとしても、勝手に自爆なんかせずに、もっと僕のことを頼って、二人で力を合わせて乗り越えていこうじゃないか⁉」
そのように、更に顔を近づけて、今にも食いつかんばかりに叫び終えれば、
「──もう、やめてください!」
なぜだか急に顔を真っ赤に染め上げるや、僕を突き飛ばすようにして飛び退いて、今度は自分のほうから怒濤のように怒鳴り散らし始める、見かけ上は人形そのものの可憐な少女。
「な、何ですか?
そう言うやいなや、全身からすべての力を失ったかのようにして、その場に崩れ落ちる、自称軍艦娘さん。
「──おっと、だ、大丈夫か、キヨ⁉」
慌てて抱きとめてはみたものの、彼女のほうはすでに、意識を完全に失ってしまっていたのである。
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