第22話

 ──その時僕こと、大陸東部きっての錬金術師兼召喚術士であるアミール=アルハルは、満を持して『奥の手』を繰り出すために、高らかに叫んだ。




「集合的無意識とのアクセスを申請! 対象、サソリ女型モンスター!」




『──グオッ⁉』




 僕の、召喚術士としての魔導力の発動と同時に、頭を抱えて悶絶し始める、ラスボス嬢。


『……き、貴様、何をした? ──ッ。や、やめろ、我の中に、入ってくるな!』


「さあ、心を開くのです、あるがままを受け容れるのです。我々は最初から、争う必要なぞ無かったのですから!」


『──な、何を、一体何を、言っているのだ⁉』


「おかしいとは、思いませんでした?」


『はあ?』




「このように、いかにも冒険者のためだけにあるような、『ダンジョン』などといったものが存在していて、我々に討たれるためだけにモンスターが、ご親切にも階層ごとにレベル分けして存在していて、しかも我々にメリットをもたらすためだけに、『宝箱』なんてものが不自然に存在していて、あまつさえにまさしくあなたのように、一つの階層の最後の地点には、必ず『ボス部屋』があって、あなたのような強大な力を有している『フロアボス』が存在していて、むちゃくちゃ強敵でありながらも、何だかんだ言って最後には討たれてくれて、莫大な経験値とドロップアイテムをもたらしてくれるなんて、どう考えても御都合主義過ぎるでしょう? 何でほぼすべての異世界系のWeb小説においては、このような不自然なことがまかり通っているのでしょうねえ?」




『「「「──おいこら、それは絶対に、言っちゃ駄目なやつ!!!」」」』




 僕の長口上が終わるや否や、一斉にツッコミを入れる、ラスボスとパーティメンバーたち。


 ……おかしいな、別に間違ったことなんて、言ってはいないはずだが。




「──ええい! それはともかくとして、集合的無意識よりの『必要情報データ』のインストール、出力最大マックス化!」




『うぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!!』




 僕の本気の魔導力の発動により、ついに力尽きて倒れ込む、ラスボスさん。


 もちろんこれで完全に退治できたわけではなく、すぐさま『命令』を下す。


「……さあ、目覚めよ、我がえん』!」




『──はっ、我が主マイマスター!』




「「「なっ⁉」」」




 突然身を起こすや、いかにも臣下の礼をとるようにして右手を胸元に当てて、僕に向かって深々とこうべを垂れるラスボスの姿を見て、揃って我が目を疑う仲間たち。


「久しいな、飛燕」


『かれこれ四年ぶりでしょうか? 再びマスターのご尊顔を拝謁できて、恐悦至極にございます』


「……こ、これは、一体」


 いかにも仲睦まじげに会話を行う僕とラスボスの姿に、驚愕の表情で問いかけてくる、パーティリーダーの剣士殿。


「ああ、もう心配いらないよ、今のこいつはもはやラスボスなんかでは無く、僕の忠実なるしもべだから」


「何、だと?」


「だから、召喚術を使ったのさ」


「召喚? 一体召喚したと言うんだ⁉」


「だから僕の忠実なる部下である、旧大日本帝国陸軍航空隊の唯一無二の液冷型戦闘機、飛燕──の、『精神データ』のみさ」


「……戦闘機の、精神データ、だって?」




「普通だったら、ショゴスできたホムンクルスやゴーレム等の『つくりもの』を受け皿にして、異世界等から別の存在の『記憶や知識データ』をインストールするところだけど、今回はラスボスの肉体に、別の世界──『第二次世界大戦中の日本』から、戦闘機の『機体情報データ』をインストールしたってわけなんだよ」




「──つ、つまり、ラスボスに無理やり別の世界の別の存在の『記憶と知識』を、、自分の部下にしてしまったということかよ⁉」


「す、すごい! こんな召喚術の──異世界転生の、やり方があるなんて!」


「まさに、異世界Web小説における、大革命じゃないか⁉」




 驚嘆するとともに、口々に賞賛の声を上げる、パーティメンバーたち。


 まあね。


 これまでのWeb小説やラノベには、大ピンチの際に『お手軽インスタント異世界転移』をさせて、異能力者等の役に立つ人間や、サラリーマン親父等の役に立たない人間等を、瞬時に転移させるといった作品はあったが、いきなり異世界転生させて、目の前の敵キャラに別の存在の精神をインストールして、危機を乗り越えるなんていう作品は、皆無だったはずだ。


「……まあ、そうは言っても、これって別に万能じゃ無いんだよね。まさしくこのような異世界系Web小説ならではに、ラスボスとのんきに会話を交わせるような御都合主義のシチュエーションならともかく、問答無用で襲いかかってきた暗殺者や、もっと大規模な集団戦闘において、自分と相対している敵キャラ等に対しては、一瞬にして集合的無意識にアクセスさせるなんて、とても無理な話だからねえ」


「で、でも、今現にラスボスを、一瞬で別人格化させてみせたじゃないか?」




「だから、こうして実際にお手本を示したように、事前に彼女のような『ダンジョンにおけるラスボス』という存在に対して、まさしく『存在意義』を揺るがすような疑問を投げかけることによって、動揺を与えたじゃないか? 言わば僕は、そこに生じた彼女の隙を突いたわけだよ。彼女は今この時も厳然として、ラスボスであり続けているのであり、集合的無意識とのアクセスが途絶えて、別の世界の部下の情報のインストールが不可能になれば、すぐさまラスボスに戻ってしまうんだからね? ──何せ、何度も何度も言っているように、本好きの日本人が転生したから、異世界人が何の脈略もなく突然本好きになるんじゃなくて、元々本好きだった異世界人が、あくまでも異世界人としての自分の夢を叶えるために、集合的無意識とのアクセスを果たして、本好きの日本人の『最先端の知識』を自ら己の脳みそにインストールしているに過ぎないのだからね、そこを間違っちゃ駄目だよ?」




「……つまり、お前は、自分の部下の情報を受け容れさせるために、ラスボスの自我を揺さぶるようなことを、あえて言ったってわけか?」


「ひ、ひでえ、これじゃ召喚術と言うよりも、洗脳術じゃん⁉」」


「どっちがラスボスだか、わかりはしないぜ!」




 僕のあまりと言えばあまりなやり口に、むしろ口々に苦言を呈し始める仲間たち。




 ──やかましい、結局は、『勝てば官軍』なんだよ!

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