第13話

 ──現代日本の推定三千万人の、軍艦擬人化美少女ゲーム大好きな、ヒキオタニートのお兄ちゃん&お姉ちゃん、こんにちは☆


 実は『ツンデレ気味の妹(しかも幼女)』という、あざといキャラ付けでお馴染みの、(『連○砲ちゃん』ならぬ)『転生法ちゃん』だよ♡



 ──さて、皆さんは、『テセウスの船』という説話について、ご存じかしら?



 なんか最近、同名タイトルの某漫画がドラマ化されたり、某軍艦擬人化アニメの中で言及されたりすることによって、興味を覚えた方もおられるかと思うけど、簡単に言っちゃうと、その物にとっての『同一性』というものは、どこまで維持されて、どこからが限界なのかって、話なの。


 それというのも、そもそもテセウスの船自体が、『ギリシャ神話』に登場したくらい大昔の船であるゆえに、船体が損傷したり経年劣化したりするごとに、どんどんと新しい材料で補修されていくうちに、とうとう船体のすべてにおいて、オリジナルの部分が無くなってしまったわけ。


 ──果たしてその場合、この船は、最初に建造された時点の船体と、まったく同一のものと言えるかしらねえ?



 ……と言うのが、テセウスの船の、『パラドックス』あるいは『思考実験』と、呼ばれるものだけど、



 まあ、この説話自体は、何の意味も無い、『頭の体操』のための材料とでも、思っていてちょうだいな。


 普通これに対しては、「いくら材料が変わっても、同じ船に違いない」と言う人も、「構成するものが全部変わってしまえば、さすがにまったく同じものとは言えないんじゃないの?」と言う人も、それぞれいると思うけど、ぶっちゃけて言えば、なの。みんな、




 ──こんなもの、「いくら材料が変わろうとも、同じ船である事実は変わりはしない」って、最初から答えが決まっているの!




『問いかけ』自体において、いかにももっともらしいことを言っているから、「……そうだよね、構成するものが全部変われば、別の船になっちゃうよね?」と思わせるように、だけなの!


 この話の、『ペテン』そのものの部分は、『前提条件』から、インチキであるところなのよ。


 残念ながら、いくら新しい材料を加えていこうが、『テセウスの船』の同一性は、微塵も揺るぎはしないの。


 具体的に言うと、オリジナルの材料が100%の時点と、90%の時点と、50%の時点と、30%の時点と、10%の時点とでは、同一性に


 なぜなら、同一性には、「……ううむ、この段階では、同一性はおよそ、33%くらいかのう」などというふうに、数字で表すことはあり得ないからでーす!


 あなたたちはみんな、ペテンにかけられているだけなのよ! あたかも、「オリジナルの材料が70%だった場合、同一性も70%である」かのようにね!


 あえて数字で表すと、同一性というものは、100%しかあり得ないの!


 それと言うのもねえ、例えば『テセウスの船』に対して、10%だけ新しい材料を加えた場合、よほどのへそ曲がりで無い限りは、「これはテセウスの船そのものである」と見なすと思うの。


 ──はい! 答えが出ましたね?



 そうなのです、『そのもの』と言うことは、『同一である』と言うことであり、たとえ10%とはいえ新しい材料を加えた場合においても、100%同一と言うことなのです!



 後はこの繰り返しに過ぎず、仮に10%ずつ新たな材料を加えていくとしても、どんどんと同一性が減り続けたりはせず、常に90%+10%=100%を繰り返していくだけで、「10%の材料を10回入れ替えたから、これでオリジナルの部分が0%になったので、同一性は失われた」なんてことは無く、同一性は依然100%のままに保たれているのです!



 一応このようにして、数字を使って論理的にご説明いたしましたが、本当はそんな必要も無かったの。──だってこれって、単なる『常識』なんだもの。


 例えば、田中さんが自分の住んでいる家を改築し続けているうちに、オリジナルの材料が無くなった途端、「もはやこれは田中さんの家ではなくなりましたので、今すぐ出て行ってください」とか言おうものなら、頭の具合を疑われても仕方ないでしょう?


 ──ぶはははは! いくら『テセウスの船』なんか持ち出してきて、自分をさも『お利口さん』であるように見せかけようとしたところで、しょせんは『他人の受け容れ』に過ぎず、自分の頭で考えようとしないから、これほど明らかなる『矛盾点』にも気づくことができないのよ。


 今度、いかにも得意満面に、『テセウスの船』の例え話をし始めた人間を見かけた時には、こっそりと心の中であざ笑ってあげるといいわ♫(すっげえゲス顔で)



 ──さて、実はここからが本題なんだけど、だったらいっそこと、すべての材料について、不可抗力的に全損したり、故意に丸ごと廃棄したために、まったく新しい船を造って、同じ名前をつけた場合、両者の間には同一性があると言えるかしら?



 まあ、この場合については、基本的には、『別物』として扱うのが、当然よね?


 たとえ同じ名前をつけたとしても、普通はまったく同じとは見なされずに、『二代目』とか『三代目』とかの扱いを受けるのが、社会的慣例かな?


 そもそもこういったケースにおいては大抵のところ、過去の偉大なる船にあやかって、新造の船に同じ名前をつけるというのが多いだろうし、間違っても『同じ船』だと見なす人なんていないでしょう。



 ──ただし、『最初から壊れた船』であるならば、何度全損して、何度一から造り直そうとも、同一性を守り続けることができるのよ!



 ……うふふ、本来ならここで、「『最初から壊れた船』って、一体どういうことなのだ?」って話になるところだろうけど、本作の最近の流れを追っておられる読者様だったら、もはや十分おわかりよね?



 そう、まさしく、『軍艦擬人化美少女』のことなの!



 何せ軍艦擬人化美少女というものは、女の子の身体に、かつて戦争の中で失われていった、様々な軍艦の『魂』が込められているゆえに、肉体よりも精神のほうこそが同一性の基準となるので、極論すれば、肉体側が(いわゆる『大破』して)取り返しがつかないほど損傷した場合でも、別の肉体に軍艦としての魂をインストールすれば、同一の軍艦擬人化美少女だと見なされるわけなのよ。



 特に本作でたびたび言及しているように、軍艦擬人化美少女を異世界転生させている場合だと、軍艦由来であるのは文字通り転生してきた『魂』(厳密には、集合的無意識を介してインストールされた、当該軍艦の『情報』)のみで、肉体のほうについては、異世界原産のものが使用されることになり、特に異世界側で故意に『軍艦擬人化美少女』を作成しようとして、『軍艦の魂』を転生させた場合、その『受け皿』がただの異世界人の女の子でしかなかったら、軍艦としての性能なんて発揮できやしないので、オリハルコンやミスリル銀製の船体や艦砲等の艤装にだって、いくらでも変幻自在な不定形暗黒生物の『ショゴス』等を材料に構成された、特別あつらえの物が用意されるものと思われるの。



 ──だとしたら、たとえ軍艦擬人化美少女が取り返しのつかない大破状態になったとしても、新しく『受け皿』を用意して、魂だけ再び転生(=集合的無意識を介してのインストール)させればいいだけの話で、何度新しい肉体に入れ替えようとも、同一性を保つことができるってわけなの。




 つまり、軍艦擬人化美少女なるものは、見た目通りの人間の女の子と言うよりはむしろ、『つくりもの』以外の何物でも無いってことなの。




 そのように一見ただの女の子のように見えるのは、軍艦擬人化美少女が登場するゲーム等の創作物が、艦戦ゲームというミリタリィ面だけでは無く、美少女育成ゲームとしての『萌え』面をも重要視しているからで、常識的に考えれば、普通の女の子風情に、軍艦そのものの攻撃や防御ができるはずはないのよ。


 まあ、21世紀の日本国におわす、ネットオンリーの自称『提督』さんたちの夢を壊して申し訳ないんだけど、本作においてこれまで幾度となく言及してきたように、異世界において軍艦擬人化美少女を実現するためには、まさしく異世界ならではに、クトゥルフ神話でお馴染みの不定形暗黒生物の『ショゴス』をベースに、オリハルコンとかミスリル銀とかの魔法物質を加味した異形の肉体からなる、『少女の姿をしたナニか』こそが、必要とされるわけなの。


 これは、『テセウスの船』問題における同一性についても同様で、先程述べたように、ゆっくりと構成物を変えていくのではなく、一度にそっくり入れ替えた場合においても、その時点の船の持ち主等の主要な関係者が、「これはまったく同一の船なのである」と主張していれば、どんなに論理的かつ常識的に正しかろうが、外野は一切口出しできないの。



 ──だって、本物の船であろうが、軍艦擬人化美少女であろうが、単なる『つくりもの』に過ぎないんだもの。当然『人格』なんて認められることは無く、持ち主等の権利者の一存で、廃棄されたり、作り替えられたりして、まったく別の個体であるかのようにに様変わりしてしまおうが、別に問題は無く、しかも同様に持ち主等の一存だけで、同一性すら継続されることになるの。



 しょせん、『つくりもの』は『つくりもの』に過ぎず、そこに人格や萌えを見いだしたところで、単なる妄想のようなものでしかないわけなの。




 ただし、実は『つくりもの』であることこそが、軍艦擬人化美少女にとって──それも何よりも、『防御面』において、破格の優位点メリットをもたらしてくれるのよ!




 何せ軍艦擬人化美少女は、単なる『つくりもの』なのだから、取り返しのつかないほど『大破』した場合であろうとも、全面的に修理すればいいだけだし、もはや修復不可能な場合は、まったく新しい材料でまったくの新品として、造り直せばいいだけなの。




 しかも、軍艦擬人化美少女のアイデンティティである、オリジナルの軍艦としての『情報データ』は、集合的無意識を介していつでもどのような『容れ物』に対してでも、『転生インストール』させることができるので、ただの女の子の場合なら死亡したり消滅したりしかねない程に、肉体的に完全に破壊されようが、何度でも『生き返らせる』ことができるわけであり、事実上の『不死』であるとも言い得るでしょうよ。




 ──そう、まさに軍艦擬人化美少女は、『つくりもの』であるからこそ、『死』や『消滅』すらも恐れる必要の無い、絶対無敵の『防御力』を誇っているってわけなのよ。

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