センチメンタリズム

さっき私は、<価値観>という言葉を使ったけど、これはあくまで説明する上で分かりやすいようにする為のただの<言葉のあや>でしかない。正確にはロボットには<価値観>なんてものはない。あくまで自身にインストールされた法律や条例や社会規範に照らし合わせてそれに反しない範囲で人間の為に働くということをしてるだけだから、人間のように<個人的な価値観>っていうのは持ってないんだ。


ロボットは基本的に、人間のように自分が持っている情報の一部だけを切り取って自身に都合よく解釈もしないように設計されてる。ロボットが判断を誤ることがあるとすれば、それは与えられた情報に誤りがあるからだ。


それは別に、『ロボットの方が人間より賢い』っていう意味じゃないよ。むしろ『要領が悪い』と言った方が近いかもね。与えられた情報を基に総当たりでシミュレーションしてるだけっていうのもあるから。だから融通が利かないこともある。決められたことは決められたとおりにしかできないんだよね。


だから子供のCLS患者を人間と判断するのだって、やっぱり前提条件に齟齬があるからだしさ。


でもロボットは自分でそれを改めることもできないんだよね。よっぽどきちんとした手続きの上で情報をアップデートしない限りは。


そういう意味でも、フランネルSJ30FHはこれからも子供のCLS患者を保護し続けるだろう。だけど私もリリアテレサもそれを改めることはしない。彼女達と対立しなきゃいけない理由も私達にはない。


彼女達の管理下にあるCLS患者に対して私達は判断はしない。しないことを決めている。私達はあくまで、<CKS患者を処置する>為に投下されたロボットじゃないから。


「良い旅を」


集落を掠めて伸びる道を進む私達を、フランネルSJ30FHがそう言って見送ってくれた。


この集落にいた六機のメイトギアはきっと、人間と一緒に暮らしていた時を再現してまるで人間ように振る舞って、この<ごっこ遊び>のような奇妙な暮らしをこれからもずっと続けるんだろう。保護しているCLS患者が活動を停止したとしても、今度はロボットだけで。自分達が機能停止するまで。


それに何の意味があるのかも私達は考えない。判断しない。彼女達は彼女達で好きにすればいい。だから私達もただ旅を続けるだけだ。


私達の姿が完全に見えなくなるまで、フランネルSJ30FHは見送っていた。それは名残を惜しんでるんじゃなくて、ただ警戒してるだけっていうのも分かってる。


ロボットにそんなセンチメンタリズムはないからね。普通は。


ただ、私やリリアテレサのような、まともじゃないロボットも中にはいるけどさ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る