モーリス
その豚が何故、私達をここに導いたのかは分からない。もしかしたら私達が勝手に<導かれた>と解釈してるだけかもしれない。この豚は単に、散歩に出てウロウロしてて、それで満足したから帰途についただけかもしれない。それについてきてしまっただけかもね。
CLSを発症した患者は、活動を停止すれば一ヶ月と経たずに塵の山と化す。ミイラになるなんて事例はこれまで確認されてない。その上、ノートに日記のように書かれた文章は、十三年前の日付と一緒に記されたものが最後だった。
そこには、こう書かれてた。
『みんな恐ろしい怪物になってしまった。だけどモーリスだけは私と一緒にいてくれた。
でも、私ももうお迎えが来たみたい。目もよく見えない。モーリスの姿がよく見えないのが悲しいけれど、傍にいてくれるのは感じる。
ごめんね、モーリス。そして、ありがとう』
よく見えない目で書いたからか字は乱れてたけど、辛うじてそう読めた。
ここに書かれてる<モーリス>というのがこの豚の名前なのかな?
「…どうする?」
「人間の遺体だからね。やっぱり埋葬してあげるのがいいんじゃないかな…」
リリアテレサと話し合って、埋葬してあげることにした。寝ていたベッドのシーツにそのままくるんで、リリアテレサが庭に掘った穴に、丁寧に納めさせてもらった。
その間、モーリスは所在無げに私達の周りをウロウロしてたけど、邪魔をする様子はなかった。それかと思うと草を食べたり、例の虫が出てくるとそれを食べたりもしてた。そうやって生き延びたんだろう。
そして、私達が確認した四件目の不顕性感染者の事例はこうして完結した。
それからリアカーのところに戻って、再び歩き出す。すると、モーリスが私達の後をついてきた。主人が亡くなったことをようやく理解して、それで私達を次の主人にしたってことかな。
「どうする…?」
リリアテレサがまたそう訊いてきた。
「勝手についてくるんだから仕方ないと思う…」
私はそう応えて、リリアテレサも同じ結論を出して、私達はモーリスが勝手についてくるのを好きにさせることにした。
だけど結構なお年寄りって感じの豚だから、そう長くは一緒にいられないだろうなという予感もあった。
でも、それでいいかな。
なんだか奇妙な感じだけど、旅の仲間ができたってことでいいんじゃないかなとも思う。
どこまで付き合ってくれるか分からない。だけど一緒に行こう。
少し歩みが遅いモーリスに合わせ、私達もゆっくり歩いた。次のモーテルか何かまではまだ距離があるみたいだから、私はエネルギーバーをかじりながら歩き、眠くなったらリアカーの荷台で眠った。
寝付く前、荷台の枠の隙間から、モーリスがついてくるのが見えたのだった。
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