ショットガン

トレーラーの窓から外を窺うと、私の姿が見えなくなったことでCLSバッファローの動きが止まったのも確認できた。ただぼんやりと立ち尽くしてるだけだ。


しかしこいつらもよく今まで活動を続けられたなと思う。


その時、またCLSバッファローが動き出した。でも方向が違う。その先にはもそもそと動く小さな影があった。虫だ。ダンゴ虫に似た、でも大きさは二十センチくらいある節足動物だった。この惑星のかなりの範囲で旺盛に繁殖してる、毒はないけどとにかく数が多くてどこにでも現れて油断してるとすぐに家の中にまで入り込んでくる厄介者として人間には嫌われてた。


だけど、動きが遅くてかつ数だけは豊富にいることで、CLS患者や患畜にとっては格好の餌になり、彼らの活動を続けさせるという皮肉な存在だった。CLSバッファロー達もそれを食べてたんだろう。


と言っても、あの大きな体を維持するにはさすがに数が足りなかったんだろうな。バッファローは家畜として何百何千という数をまとめて飼育してた筈だから、CLSのアウトブレイクが起こった時にはそれら全部が感染した筈だけど、その分、餌が足りずに次々と活動停止して、取り敢えずはこの八頭が残ったってところか。十分に数が減れば、あの虫を食べてるだけでも活動を続けられるだろうし。


CLSに感染すると、脳が破壊されてカビのコロニー状の器官に置き換わるだけじゃなく、肉体そのものも変化して、食べたものをまったく無駄にせず、かつ動きが緩慢で代謝も緩やかだから少ないエネルギーで活動できるようになるんだ。しかも食べたものすべてを完全に利用するから排泄もしない。


私が排泄をするのは、博士が実験の為に体の機能の一部を人間のそれに戻したからだ。って、マズい。それを思い出したら尿意が……!


トレーラー内にはトイレはない。だってこれは、ロボットのメンテナンスの為のトレーラーだから。キャンピングトレーラーやトレーラーハウスじゃないから。


かと言って、このまま外に出たらCLSバッファローに私が食べられてしまう。CLS患者や患畜は、同じCLSに感染した動物は襲わない。それはどうやら脳に置き換わって頭蓋内に形成される器官同士が何らかの通信を行っているからと博士は推測してたみたいだった。


ただ、それについてはあまり興味がなかったらしくて、詳しくは調べてなかったって。


さておき、さすがにここでおしっこする訳にもいかないし、私はトレーラーの中にあったショットガン用の予備弾倉を手にとって交換し、トレーラーの窓を開けてそこからCLSバッファローの頭を狙って引き金を引いた。


バンッ!!っていう爆発音と共に私の体が後ろに吹っ飛ぶ。軍用の大口径ショットガンの反動は、この小さな体じゃ抑え切れなかったんだ。


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