装備されてない感情
今の技術でも、人間の脳の大きさに、人間の脳と同じ機能を完全に再現することはできてない。と言うか、わざとそうしないのかな。人工的に人間を作ることは禁忌とされてるから。
それは、クローンによって人間を作ることを禁止されてる点からも分かると思う。
もっとも、私の造物主のアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士はそんなこと気にもしない人だったけど。
だから滅茶苦茶なことしてたね。あの人は。私を作ったのだって普通は重罪になるよ。懲役百年くらいかな。
今の人間の健康寿命は二百歳くらいだから、人生の半分くらいの重罪か。
でも、それはあくまで人間社会にいればのことだよね。だけどこの惑星リヴィアターネにはもうそんなものはないんだよね。今のところは。
正確に言ったらそれに代わるものができつつあるんだけど、それもたぶん後何百年もかかるんじゃないかな。この惑星上に人間社会って言えるものを作るにはさ。
なんてことを、うずくまってる私の<本体>であるリリアテレサの体を抱き締めながら考えてた。
以前、同じような都市の痕跡を見た時には私の方が気分が悪くなってしまったけど、今回ももちろん気分は良くなかったけど、それでも少しは慣れてきたのかな。
私の頭蓋内にある人工脳だけでは私は完全な思考ができない。人工脳はあくまでこの体の機能を制御する為にリソースを割いており、複雑な思考ができない。単純な感情を再現するくらいか。だから人工脳だけでとなると、殆ど知能と言えるものがない動物みたいになってしまうと思う。
私の<思考>は、彼女、リリアテレサのボディに内蔵されたメインフレーム内で行われてる。リリアテレサとしての思考の為に使われてる領域とは別の領域で、私、リリア・ツヴァイとしての思考が行われてるんだ。
彼女、メイトギアと呼ばれるロボットの胴体部分の容積の半分以上を<メインフレーム>と呼ばれる人工知能が占めてる。人間なら肺とか心臓とか胃とかの内臓が詰まってるところに脳みそが詰まってるっていうイメージ? それだけの大きさがあっても、完全に人間と同じ機能は再現できてない。だからその為のリソースを確保する為という理由もあって、ロボットには本来、<感情>は装備されてない。
装備されてない筈なんだけど、どうも、人間の<感情>って脳だけで作られるものじゃないみたい。体の反応でも作られるんだなっていうのを、私は自分の体で理解した。苦しくなったり悲しくなったりすると胸が締め付けられたり痛くなったりすることで、それ自体が感情の一部なんだなっていうのが分かったんだよね。
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