お掃除ロボット
トンネルを抜けても、そこはひんやりとした高地の空気に包まれた薄暗がりだった。日はまだ沈み切ってない時間だけど、山脈の向こうに隠れていて、ここはちょうど陰になっているからだ。
しばらく歩くと、またモーテルがあった。今夜はそこに泊まることにする。
CLS患者がいないかどうかを確かめる為に敷地内に足を踏み入れると、私はある気配に気付いた。そちらに視線を向けると、客室のドアが開いて、人影が現れた。
CLS患者じゃない。かと言ってメイトギアでもない。人間に似せて精巧に作られたそれとは違い、一目でロボットだと分かる、まるでデッサン人形のような簡単な造形のロボットだった。
私を含むメイトギアは、人間の
それは、そういうロボットの一つ。客室の掃除だけを行う、それ以外にはお客の応対すらできないものだった。一応、人に近いシルエットはしているけれど、むしろ、トンネル内のパーキングエリアにあった店舗型ロボットに近いものだ。
私のデータベースにさえないタイプだったから、それこそ名も知られていないメーカー製のものかも知れない。
客も、従業員さえいなくなったこのモーテルで、与えられた仕事をただ黙々と続けているんだろう。客がチェックアウトしたらその部屋を掃除し、利用がなくても一日一回掃除しという形で。
モーテルのような客単価の安い宿泊施設ではたまに見られるロボットか。これがもうちょっとランクが上のホテルとかなら人間の従業員が清掃も行うところだろうけどね。
隣の部屋に行くかと思うとそれを飛ばしてさらにその次の部屋に入っていった。なるほど、飛ばした部屋はいまだに客がチェックインした状態になっているということか。恐らくその中には、CLS患者の痕跡である、服と塵の山がそのままになっているんだろうな。
私とリリア・ツヴァイは、<お掃除ロボット>が出てきた部屋へと入った。きちんと掃除がされていて、そのままもう泊まれる状態だった。
私達はお金は払わないから<お客>じゃないけど、あのタイプのロボットは、接客もできないから何かを言ってくることもない。ちなみにモーテルを管理しているAIには<緊急避難>としての利用を申請してある。いまだに災害が続いてる状態だからそれで通じるんだ。
そしてリリア・ツヴァイはお風呂に入りベッドで寝て、私はメンテナンスルームでメンテナンスを受けて一晩を明かし、翌朝、その部屋を出た。
すると、私達がいた部屋に、あのお掃除ロボットが入っていった。掃除をする為に。
あのロボットは、この惑星で何が起こったのかさえ理解することなく、二度と営業を再開することもないこのモーテルで、自らが壊れて動かなくなるまでただ掃除を続けるんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます