トンネル

「さて、どっちにしようか…」


長さ百キロにも及ぶトンネル内部はアミダリアクターが設置されていて電気もあり、パーキングエリアも約二十キロごとに設けられている筈だった。環境は良好に保たれ、安全な筈である。


一方、山肌に沿って築かれた道路は、標高二千メートルを超えることもあり、雪に覆われることもある過酷なルートだ。


この惑星ほしを記録して回るという意味においてはむしろ山岳ルートを選ぶべきかもしれないけれど、現在の装備では、私はともかくリリア・ツヴァイにとってはさすがに厳し過ぎると言えるだろう。


いずれは過酷な環境下でも耐えられるような装備を整え、そういった環境下の光景なども記録するとしても、今は無理をする必要もない。時間も機会もまだあるんだから。


という訳で、私達はトンネル内を通ることとなった。


けれど、さすがに行けども行けどもトンネルの壁しか見えないそこでは、


「退屈すぎる……」


などと漏らすくらいリリア・ツヴァイの方が飽きてしまい、リアカーの荷台で寝てしまった。


もちろん彼女の主な思考は私のメインフレーム内で行われているものだけど、頭蓋内の人工脳でもいくらかは行われていて、かつ肉体からのフィードバックもあり、実は私と彼女はまったく別な思考を行っているとも言えた。リンクはしていても、彼女は私の単なる<子機>じゃない。私とは意見がぶつかることさえあるんだ。


今回彼女は、トンネル内の景色に飽きてしまったということだった。


かと言って、過酷な山岳ルートを選ぶこともできなかったので、文句を言うこともなかったけれど。


トンネル内を歩き始めて約五時間。前方にパーキングエリアの表示が見えてきた。取り敢えずそこに寄って、リリア・ツヴァイの為に食事にしようと思う。


パーキングエリアに着くと、そこは、ドーム状の天井部分にトンネルの外の景色を映し出した、一見すると外のようにも見える演出が行われている場所だった。


「あれ? 外に出たの…?」


青空(の映像)が見えるそこでリリア・ツヴァイは寝ぼけたようにそんなことを言った。


「あ…投射か…」


さすがにすぐに映像だと気付いてそう呟く。


でもそんな私達の前に、また<動く死体=CLS患者>が現れた。今度は三体。


私は落ち着いて拳銃を構え、二発ずつ頭部に弾丸を打ち込み、処置する。


そうして処置した遺体を、パーキングエリア内に作られた公園に埋葬し、柵を一部解体してそれを墓標として立てた。


その時、公園脇で私はあるものを見付けていた。


「フランソワPX-33か…」


それは、休憩用のベンチに腰かけたまま動かないメイトギアだった。


一見しただけだと見目麗しい女性にも見える造形を持ちながらも、<フランソワ>という男性名が示すとおりに男性型のメイトギアであるそれは、左腕が欠損し、右手に銃を持った状態で機能停止していた。


このパーキングエリア内のCLS患者を処置中に機能停止し、そのままになったんだろう。左腕はここに投下された時点で既に欠損していたに違いない。そして彼も、最後の役目を貫いたんだ。


ロボットとして……


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