処置

リリア・ツヴァイを守るように立ったのは、この惑星ほしにはもう、基本的に人間はいない筈だったから。ロボット以外の、それなりの大きさがあって動くものはほぼすべて<動く死体>だから。そしてロボットは、その動く死体を処置して<安らかな死>を与えるのが役目だったから。


最初の頃は再びこの惑星を利用する為に、


『人間の調査チームを入れ、続いて犠牲者の親類縁者が墓参できるようにする為に、その安全の確保および、浅ましい姿でただ動き回るだけの怪物と化した人を人間に戻すのを目的に、ロボットが投入された』


のだった。


その後、実際に<人間の調査チーム>が入る前に、


『おそらく半永久的に再利用が不可能だ』


と判断されたものの、


『やはり犠牲者を<動く死体>にしたままで放置はできない』


との判断から処置は続けられ、今では相当、それが進んでいた。私達がここまでたまにしか遭遇しなかったのは、そのおかげもある。それでもたまに出てくるけど。


特に、野生動物や人間が持ち込んだ家畜が野生化したものとかは、こうやって森の中で獲物を探したりして紛れてしまい、まだそれなりの数が残っていると思われていた。


そして、本来はいる筈のない人間に見えるリリア・ツヴァイは、<処置>の対象と見做される危険性があった。


「……」


幸い、次の狙撃はなかった。リリア・ツヴァイは動く死体と違って血色もよく傷みも殆どないので、見た目には完全に人間に見えることで、動く死体とは認識されなかったのかもしれない。


私は来るかもしれない狙撃から彼女を守る為に立ち塞がったけれど、それも功を奏した可能性がある。ロボットは人間を守る為に動く。私が彼女を守ろうと動いたことで『動く死体ではない』と判断した可能性があるということだ。


そうして射線方向を警戒していると、私に内蔵された通信装置が信号を捉えた。ロボットの信号だった。しかもメイトギア。アレクシオーネPJ9S2という、中堅メーカー製の要人警護仕様機だというのが分かった。


要人警護仕様機というのは、読んで字のごとく、人間の要人の警護をする為に、私のような一般仕様機とは異なる機能を与えられたタイプのメイトギアだ。耐爆耐刃耐弾性能を高められ、同時に必要とあらば襲撃者をその場で撃退する為の戦闘力も付与されている。


と言っても、私と同じで既に旧式化して中古市場でも買い手がつかない機体だろうけど。


「あなたが連れているそれは何ですか?」


姿はまだ見えなかったけれど、アレクシオーネPJ9S2がそう問い掛けてきた。リリア・ツヴァイのことを言っているのだと分かったのだった。


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