狙撃

コンビニで一夜を明かした私達は、翌朝、穏やかな陽光を目指すかのように歩き出した。この惑星でも太陽は東からのぼり西へと沈む。月は二つあるけれども、それ以外では地球と区別を付けることすら難しいほどよく似ている。


そんな惑星ほしの上を、私とリリア・ツヴァイは歩き続ける。ただひたすら歩き続ける。標高が上がってきて、山地へと足を踏み入れてきているのが分かる。周囲の景色は、背の高い針葉樹の森になっていた。


遺伝子を調べれば、地球の針葉樹とはまったく別種の植物であることが分かるけれど。


同じような環境で同じような進化を続ければよく似た形質を獲得する場合があるという現象かもしれない。


そして、静謐な空気に包まれたそこを、私達はやはりただ歩いた。


だけどその前に、また立ち塞がる影があった。


「鹿か…」


私は呟いた。そこにいたのは、鹿によく似たこの惑星の原住生物(厳密には純粋なそれじゃなく、人間が家畜化する為に遺伝子操作したものだけど)の<動く死体>だった。


大きい。体高は二メートル以上。立派な角を頂いた成体だ。角まで含めれば二メートル五十センチはある。この種は雌雄ともに角を持つので、その点についてはどちらか分からない。


本来は草食の筈だけれど、<動く死体>は必ず生きた動物を襲う。生きていた時の食性も習性も関係ない。ただただ生きた動物を襲って食う。それだけだった。私達を見付けて食う為に現れたんだろう。


私は拳銃を構えて、そして撃った。


二回引き金を引いて、二発とも命中した。確かに命中した。なのにまるでそんなことはお構いなしとばかり歩みが止まらない。


拳銃の威力が小さすぎるんだ。彼らの頭蓋は非常に頑丈で分厚く、小口径の弾丸では容易には貫通できなかった。目を狙ってみるけれど、このタイプの草食動物の常として横向きについたそれを正面から狙うのは、精密射撃用ではない拳銃なこともあって容易ではなかった。


それでも鈍重なこいつらなど、慌てなければ敵じゃない。更に近付いてきたら横に回り込んで目を狙って撃つ。それで終わる筈だった。


だけど……


だけどその時、鹿の動く死体の頭が何かに弾かれるようにガクンと動き、眼球が飛び出してその場に崩れ落ちるように倒れた。


「狙撃…?」


リリア・ツヴァイが呟く。


その通りだった。十分な威力を持ったライフルで、頭部を狙撃したんだろう。だけど私達は慌てなかった。そういうことがあるのは既に知っていたから。


ロボットだ。私とは別のロボットが、離れたところから狙撃したのである。


しかし、そんなロボットの反応は捉えられなかった。ということは少なくとも二キロ以上は離れたところからのものに違いない。


「……」


私は弾丸が来た方向からは障害となるように、リリア・ツヴァイの傍に立ったのだった。


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