写真
リリア・ツヴァイが眠った後、私は家の中を探索してみた。けれど、これといった異変は見付けられなかった。そこで、きちんと戸締り(玄関の合鍵が見付かったから)をした上で、百メートルほど離れた隣家にも立ち入ってみた。
こちらは家を管理してるAIが機能してたから、<人命検索>を理由に立ち入る。
そしてそこで私は、<あの事件の痕跡>を見ることになった。
『お父さんの様子がおかしい』
『お母さんまでおかしくなった』
『何が起こってるの? 怖い!!』
子供部屋らしき部屋の机の上に、そう走り書きされたノートがあった。恐らくこの家の住人のメモだろう。状況から推測するにまず両親が発症して、それから子供が発症した感じか。なぜなら、床に、ちょうど子供のそれくらいの大きさの、<倒れた人の形をした服と塵の山>があったから。
部屋の壁には、両親とその子供らしき人達四人の写真がいくつも貼り付けられていた。
どれも笑顔で、幸せを満喫している姿に違いない。
だけど私にとっては、それらも、そういう写真という<情報>でしかない。人間はこのようなものを見るとここの家族を襲った悲劇を思い胸を痛めるのかもしれないけれど、私にはそんな反応は生じない。僅かにメインフレームに不可思議な負荷がかかるのが検出されるだけだ。しかしそれも、視線を外せばすぐに収まる。
写真には、この家で使われていたであろうメイトギアの姿もあった。私のデータベースにはないタイプだった。正確な形式や型番までは分からなくてもメーカーくらいならだいたい見分けがつくけれどそれさえなかったから、きっと私のメーカーと同じ、地方の弱小メーカーの、しかも不人気モデルなのだろう。
けれど、ここの家族にとっては大切な
そのメイトギアは家族が発症した時にはどうしていたのだろう。
メモにそれらしき記述がなかったところを見ると、家族の誰かに付き添って外出している間にあの事件が起こったのかもしれない。子供が二人いたようだから、もう一人の子供と一緒だったのかも。
そして帰ってこなかった。一緒にいた子供を守る為に行動していたと考えるのが普通か。でも、その子供も恐らく発症して、どう対応すればいいのか分からずにそれからも行動を共にして、だけど<あの通信>を受けて都市部へと向かってと考えるのが自然か。
病気を発症することのないロボットが残っていない理由。それもいずれ語ることになるかもしれないけれど、今のところはこれくらいにしておこうか。
私は、手にしたノートを机に戻し、しっかりと部屋の扉を閉め、開いていた玄関も閉めてその家を後にして、リリア・ツヴァイが眠っている家へと戻っていったのだった。
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