家
私達はそれからもひたすら歩いた。気付けば周りの景色が少し変わってきている。殆ど砂漠に近かった平野だったそれが、一面の草原になってきていた。山も随分と近く見える。草原を貫くように大きな河が流れているのも見えた。この辺りでは最も大きな河だった。
道路からでは水面まではよく見えないけれど、今も十分な水量が流れているのは届いてくる音で分かる。聴覚センサーの感度を上げているからだ。
ぽつぽつと人家も見える。敢えて便利な街を外れて居を構える物好きな人間が建てたものだった。でも、人間がいた筈のところということは、当然、<あいつら>がいる可能性が高くなる。だからその気配を察知する為に、センサーの感度を上げているという訳だ。
さすがに見通しがいいからそこまでしなくても近付いてくればすぐに分かるとは思う。でも、その辺りをつい用心してしまうのが私達ロボットだ。
背の低い草が生い茂ったここでは、空気も湿り気を帯びて草の匂いが濃密に混じってるのが分かる。リリア・ツヴァイにさえ分かるほど、砂漠同然だった辺りとは空気の質も違ってた。
これも、自然というものなんだろうな。
割と道路に近いところに建てられた人間の家を見る。誰も住む者もなく捨て置かれたそれは、壊れてはいないもののどこか薄汚れてそれ自体が
いや、実際に
リリア・ツヴァイがそんな家をじっと見ていることに気付いて、私は問い掛けてみた。
「行くか?」
センサーにも異常は捉えられない。中にあいつらがいる気配もない。だから私は、彼女と一緒に道路を外れてその家へと向かった。
簡単な柵で囲まれただけの、いかにもなカントリー風のデザインの木造建築だった。もっとも、それに使われている材料は現在の建築基準法に則ったものだから、わざとそういう風にデザインしたものだというのはすぐに分かる。火災を防ぐ為に建材は全て難燃素材を用いるように決められているから。
自然の木にわざわざ難燃加工を施した、やや割高な建材を使っているところを見ると、経済的に余裕のある酔狂な者が懐古趣味にでもハマって建てたんだろうな。
庭には犬小屋らしき小屋もあった。けれど、犬の姿もない。ネズミ以上の大きさの脳を持つ動物は例外なくあの病に感染し発症し、<動く死体>となるからだ。餌を求めて今もどこかをさ迷い歩いているのかもしれない。
と、その時、私の聴覚センサーに反応があった。そちらに視線を向けると、のそのそと不器用な歩き方をしている影があった。
犬だ。しかしその見た目は、明らかに生きた犬のそれではなかった。皮膚がえぐれて肉が覗き、部分的に壊死を起こしているのも分かる。
<動く死体>だ。
だから私は、拳銃を取り出して頭を狙って構え、躊躇うことなく引き金を引いたのだった。
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