第25、26話 兵術訓練所



「えっと、とりあえず、お城、くまなくまわってから考える」

「そうかぁ? しゃあないな。ほな、またあとで、よろしゅうな」


 お城のどっかに宝箱とかあるかもしれないしな。こういうのは貰うもん貰ってからじゃないと損をする。


 というわけで、まずは目の前の訓練所に入った。

 兵隊さんが数人、案山子かかしを相手に訓練中。

 近いところにいた僕と同い年くらいの青年兵士が声をかけてくる。


「あっ、ども。見かけない人ですね」

「旅人です。らんらん姫と同行してきました」

「そうなんですね。じゃあ、訓練していきますか?」

「えっと……」


 したほうがいいのかな?

 キャタッピ一匹、倒せない僕……。


「今、レベルは?」と聞かれて、ステータスを確認する。

「あっ、レベル7になってる。みんなといっしょだったから、レベルだけは上がるなぁ。HP76、MP54——あれ、MPすごい伸びてるな。力8、体力6、知力15——知力もスゴイな。素早さ7、器用さ11」


 そして、僕は気づいた。


「あっ! 魔法が使える! 『元気になれ〜』って、蘭さんがやってくれたやつだ。回復魔法か。まっ、一人で遠征とかになったとき、必須だよね」

「じゃあ、練習してみませんか?」

「あっ、でも、休んでMP回復してからじゃないと」

「訓練所のなかはMPなくても魔法使えるんですよ」


 兵隊さんに勧められて、僕は試しに魔法を使ってみることにした。

 それにしても、呪文が致命的にダサいけど、そこはいかんともしがたい。


「じゃあ、行きます。元気になれ〜」


 ん? 何も起こらないぞ?


 すると、兵隊さんが、厳しい教官の顔になる。


「そんなんじゃダメだ。ちゃんと呪文どおりにやらないと」

「えっ? 呪文どおりに言いましたけど?」

「違う! ちゃんと見て」


 トントンと、兵隊さんはモニターを叩く。

 僕はその指のさきを見た。

 ん? あれ? なんか変だぞ。

 呪文のよこに、なんかある。



 元気になれ〜ヽ(*´∀`)



 なんだ、コレ?




 *


 兵隊さんは教官の顔のまま、トントンとモニターの呪文を叩いた。


「コレです」

「コレ?」


 もしかして、顔文字か?


「えっと、この……え、笑顔?」

「そうです。呪文はこの顔のような文字の表情で言わないと、効果が表れないんだ!」


 顔文字の顔で呪文詠唱。

 顔文字の顔で呪文詠唱。


 もう一回言うよ?

 顔文字の顔で呪文……。


「ええーッ!」

「ええっ、じゃないよ? ほら、やってみよう」

「マジで? この顔じゃないとダメ? そのための記号?」

「そうです。元気になれだけじゃないですよ? ほかの魔法にも、みんな、こういう顔っぽい記号がついてます。呪文によって記号は違うけど、なるべく、それに近いほうが効果がいいんでね」

「ええーッ!」


 なに、その辱しめ?


「そ、そうか。だから、蘭さんは呪文唱えるとき、いつも、あんな素敵な笑顔だったんだ」

「そです。やってみましょう」

「は、恥ずい……」

「ダメダメ。その恥ずかしいと思う気持ちを捨てないと、いい魔法使いにはなれません。さ、練習。練習」


 そのあと三十分。

 僕は訓練所で特訓した。

 それは魔法の練習じゃない。

 笑顔の練習だった。


 なんなんだ。この世界。

 ブツブツ……。

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