異世界モノで好きな作品。

2022年11月16日


 どうも、あじさいです。


 異世界転生・転移モノには無限の可能性があると述べたわけですから、続けて「たとえばこんな作品が好きなんですよ」という話をしたかったのですが、改めて考えてみたら、筆者が(比較的)好きな作品には転生・転移要素がありませんでした。


※まだ書籍化されていない作品には筆者が好きな転生・転移モノもあるのですが、収拾がつかなくなるので、今回は書籍化やコミカライズをされた作品に限定して話をさせていただきます。


 一応、小論『文章チェックのヒント』で酷評した『八男って、それはないでしょう!』を、マンガ版で8巻まで持っているのですが、好きかと聞かれても別にそういうわけではありません。

 YouTubeのレビュー動画でツッコミどころを把握はあくした上でアニメ版を見て、それよりマシだと聞いてマンガ版を読んで、「異世界転生・転移モノってこういう感じなのか」と思っただけで(いて言っても「ルイーゼがアニメ版より良いキャラしてる」というくらいで)、言ってしまうと教材や研究サンプルに近いです。




 異世界転生ブームの火付け役と言われる『無職転生 - 異世界行ったら本気だす -』という作品が、数年前にようやくアニメ化され、なろう系作品の界隈かいわいで話題になったとき、筆者がカクヨムで尊敬している書き手さんも熱くプッシュなさっていたので、筆者もマンガ版を5巻まで読みましたが、これもいまいち響きませんでした。

 作品自体が差別的とまでは言いませんが、ネットでもよく言われるように、主人公ルーデウスが節操のないスケベなのは、やはり問題でしょうね。

 おそらく作者さんがこの作品を書き始めた頃、ネット小説で主人公をこのような設定にするのは悪手ではなかったのでしょう。

 それに、この主人公が気持ち悪いことは作中でもツッコミが入っているので、そこはまだマシかと思います。

 ただ、率直に申しますと、筆者はこういう男性は苦手です。


 この作品には、まともに評価できるところもあります。

 副題にもある「異世界行ったら本気だす」という精神です。

 現在流行を作っている異世界作品は、「現世で頑張ったから異世界では好きになまける(スローライフする)」というスタンスがほとんどですが、本作はその逆で、「現世で頑張れなかったから異世界では頑張る」と言っているわけです。

 しかも、この作品で言う「本気だす」、「頑張る」というのは、単にチート能力を駆使くしするとか、(不正に近い方法で)お金をかせぐといった金銭的な意味合いではなく、先生の期待に応える、引き受けた仕事をまっとうする、関わった人々を守るために尽力するといった誠意の話なんですね。

 後続の異世界転生者たちがひどすぎるだけで、元現代日本人なら普通の倫理観じゃない? と言えば、たしかにそうなのですが、善人とは言わないまでも完全なクズ人間ではないというか、主人公キャラとして見どころがのかな、と思います。




 Web小説原作で筆者が好きな作品というと、転生・転移モノではありませんが、『おっさん冒険者ケインの善行』です。

 筆者はまだマンガ版を6巻しか持っていませんが、今後も買うつもりではいます。


 ツッコミどころが多いと言えばその通りで、ハーレム要素があります。

 筆者はこう見えて(こう見えて?)、男性向け作品に見られる、男性キャラが少なく、女性キャラばかり多く登場する筋書き自体に文句があるわけではありません。

 ただ、女性キャラみんなが主人公の男性を恋愛的に好きになるとなれば、作品全体に、女性をトロフィー扱いしているような雰囲気が出てしまうものだと思います。

 本作の場合もたしかに、主要女性キャラの過半数は主人公ケインを好きになりますし、何人かは天然で済ますには苦しいタイプなので、ちょっとグレーではあります。


 ただ、この話のきもは、主人公の善人っぷりが周りの人々に影響し、波紋を広げていくところにあります。

 主人公をしたって敬愛する人々には男性キャラも多く含まれますし、女性キャラも全員が主人公を好きになるわけではなく、エロ展開につながりそうな不自然な言動に対しては他のキャラたちからツッコミが入ります。

 そのため、一般受けを狙ったエロ描写やそれにるいする発想はありつつも、一応、守るべきラインは守っているんではないかと思います。




 偏屈へんくつな筆者がこの作品を好きな理由は、作中で善人として描かれる主人公ケインが、実際に善人だからです。

 もちろん、マイケル・サンデル氏や中島義道よしみち氏などは疑問を投げかけてくるかもしれませんが、おおむね善人と言えると思います。

 善人の基本は、「人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる」ことです(『ドラえもん のび太の結婚前夜』より)。

 ケインはちゃんとこの図式にのっとった振る舞いをしてくれます。


 中年になっても薬草集めをしているくらい、冒険者としての力は弱く、そのせいで腰が引けている場面も多いのですが、リスクを負っても仲間のために動こうとする真摯しんしさがあり、肝心な仕事を他人に任せねばならないときには自分の非力さをくやしがります。

 そして、自分を苦しめた悪人が死んだのを見ても、「ざまぁ見ろ!」とは言いません。

 なろう系作品の主人公としては稀有けうな存在です。


 先日のエッセイで、海外ドラマ『クリミナル・マインド』の名言を引いて、ファンタジーの意義はドラゴンの存在をえがくことではなく、我々でもドラゴンを殺すことができるということを描くことにある、というお話をしました。

 本作のケインは、ドラゴンに象徴される困難を、自力で突破できるタイプではありません。

 ですが、困難に向き合うときの姿勢は、立派です。

 仲間たちと協力することもそうなのですが、厳しく無情な現実があってもなお優しい心を失わない彼の姿には、人間にとって大切なものが宿っているように思います。




 あれ?

 異世界転生・転移モノの作品を紹介するはずが、どちらでもない作品について熱く語っている……?


 このままで終わりづらいので、テーマ性とは無縁のコメディですが、書籍化された作品で、筆者がWeb小説版を読んで面白かった(現在も公開中の)2作をご紹介しておきます。


高橋弘『太宰治、異世界転生して勇者になる ~チートの多い生涯を送って来ました~【連載版】』

https://ncode.syosetu.com/n4929ga/


ロリバス『偏差値10の俺がい世界で知恵の勇者になれたワケ』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882072437


 上に紹介した『無職転生』はWeb小説版を「小説家になろう」で、マンガ版をマンガアプリ「コミックシーモア」、「ピッコマ」などで、『おっさん冒険者ケインの善行』は、Web小説版を「小説家になろう」で、マンガ版をマンガアプリ「マンガUP!」、「ピッコマ」などで読むことができます。


理不尽な孫の手『無職転生 - 異世界行ったら本気だす -』

Web小説版:https://ncode.syosetu.com/n9669bk/


風来山『おっさん冒険者ケインの善行』

Web小説版:https://ncode.syosetu.com/n9551ee/




 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 おっさん冒険者ケインは、書籍版のイラストとマンガ版で顔がかなり違うのですが、筆者はマンガ版の、ちょっととぼけた四角い顔が好きです。

 ハーレム要素ありの作品と紹介しましたが、キャラデザ的にメインヒロインっぽいアナストレアが一部の読者に不人気なのに加え、ケインの愛する女性が故人という事実が(結果的に)ハーレム展開の抑止力になっているので、なろう系が安易なエロに走りまくっている今となっては、アニメ化は難しいかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る