テンプレ小説談義(4)テンプレ小説の思い出

2021年4月23日


 どうも、あじさいです。


 この「テンプレ小説談義」、思いの外、話が長くなっていますね。

 過去3回ともテンプレ小説に対する批判をふうじる論調になっていることに、自分でも驚きます。


 これまでのお話を振り返っておきますと、第1回は主観的な好き嫌いと客観的な不備を分けて、悪口ではなく批判をするべきだ(そして批判を受けた人はなるべく同じ土俵どひょうで反論をするべきだ)という話をしました。

 第2回では、Web小説に対する批判はなるべく建設的な(前向きで役に立つ)ものであることが望ましく、作品の内在的な性質に対する建設的な批判には4種類(書き手が書く/読者が読む、その作品/別作品という2つのじく)が考えられるという話をしました。

 そして前回の第3回では、Web小説に対する批判の意義は、作品の位置づけや想定されている読者層によっても変わるものであり、仮にテンプレ小説が異世界ファンタジーよりもR18同人誌に近いものとして書かれているのであれば、我々がテンプレ小説について言える批判はさらに限定されるだろう、という話をしました。


 テンプレ小説を擁護ようごするようなことをこんなにも長々と述べることになった理由は、逆説的に聞こえるかもしれませんが、筆者の中にテンプレ小説の流行をこころよく思わないところがあるからだろうと思います。

 油断すると「登場人物が気持ち悪い」、「既視感きしかんがすごすぎて平常心で見ていられない」、「世界観も社会制度もご都合主義でゆがめられている」、「差別意識があからさまでつらい」、「人を軽蔑することでしか自尊心を満たせない様子が浅ましい」といったことをまくし立てるだけで終わりそうなので、文芸に対する批判はどうあるべきかを考えることで、自分の気持ちを牽制けんせいしておくことにしたわけです。




 以前にもお話ししたように筆者はテンプレ系作品やテンプレ小説が苦手なのですが、それでも白状すれば、そういうものにハマっていたと言わざるを得ない時期が何度かありました(そして今後も多少は手を伸ばすことになると思います)。

 『賢者の孫』のアニメ版は何度か繰り返して見ましたし、『魔王様、リトライ!』はアニメ版をリピートした上でコミック版をまとめ買いしました。

 『魔法科高校の劣等生』に関しては無課金ながらスマホゲームをやって(すでにサービス終了しましたが)、アニメの続編にあたる小説を何冊か買って、映画を劇場まで見に行きました。

 某マンガアプリでテンプレ系作品をあさって、紙のコミックを数冊買ったこともあります。

 そう言えば、つい最近も『魔王学院の不適合者』というアニメを最終話まで見ました。


 初めてテンプレ系作品に触れたときから、どれをとってもツッコミどころが多いとは思っていましたし、『魔法科高校の劣等生』からけて見える中国人や女性に対する差別意識は今も昔もずっといやなのですが、当時はそれらの作品の不備や矛盾むじゅんを今ほど気持ち悪いとは感じなかったんですね。

 ネットの声を見ても、テンプレ系作品は精神的に疲れているときほどハマりやすいと聞きますし、「頭をからっぽにして見られる」というコメントがめ言葉として書き込まれているので、現代日本人には、理屈通りでないものを見て諸々もろもろの面倒なものを笑い飛ばしたい夜もあるのだろうと思います。

 また、『賢者の孫』がTV放送された頃、筆者は自作の異世界ファンタジーを人知れず書きめていたのですが、執筆が進まないときにあの作品を見ると元気づけられました。

 失礼な話ですが、「こんな作品でもアニメ化まで行ってるんだし、うじうじなやむよりとりあえず書いてみるべきだよなぁ」と思っていました。


 しかし、何ヶ月か前に、『魔法科高校の劣等生』のアニメ2期が放送されるというので復習のために1期の九校戦きゅうこうせん編を見ようとしたのですが、気持ち悪さにえられなくなって中断しました。

 ためしに『賢者の孫』も再視聴しようとしましたが、一時期は中毒のように見た第3話(究極魔法研究会の名前が決まった後にカートくんが悲惨なことになる回)を見終えるのがやっとでした。

 どちらも有名な作品なので既にネット上で散々ツッコミを入れられていますが、気持ち悪いと言っておいて具体的な話をしないのは建設的ではないでしょうから、筆者もひとつだけ指摘しておくことにしますと、主人公をのぞくほとんどの登場人物が本音と建前の使い分けをしていないんですよね。

 これは葛藤かっとうや苦悩、思慮しりょ配慮はいりょ、大人の対応などと言いえても良いかもしれません。

 主人公が実力の片鱗へんりんを見せると、「さすがです、お兄様!」

 主人公が乱暴者を軽くあしらうと、「貴様、○○のくせに生意気なまいきだぞ!」

 大体この2パターンで、みんな心に思ったことをそのまま口にします。

 ひとりの人物の中で主人公に対するポジティブな感情とネガティブな感情がせめぎ合っていると示唆しさされることはほとんどありません(例外的に九校戦編のエリカが若干そんな感じですが、残念ながら本筋ほんすじかかわってきませんし、葛藤によって彼女が成長する訳でもなければ、彼女が本音を吐露とろしたことで主人公お兄様との信頼が深まる訳でもありません)。

 せめて一旦だまってくれれば人間心理の描写に深みが増すかもしれないのですが、ご丁寧ていねいにもみんな本音を口に出さずにはいられないキャラクターばかりなんですよね。

 この辺りが、テンプレ系作品に共通する、「登場人物が主人公を賛美ヨイショするだけの存在になっている」という批判の一因だと思います。




 好き嫌いの話が長くなりましたが、テンプレ小説に対する批判のあるべき形に、話をもどしましょう。

 第2回で取り上げた4種の建設的な批判に、第3回で列挙したテンプレ小説に対するありがちな批判を当てはめていくと、以下のようになると思います。



(1)作者が加筆修正や軌道きどう修正によってその作品をより良いものにするとき役に立つ批判。

・設定に矛盾がある。

 → 説明を加えれば読者の「誤解」をとける可能性がある。

・ラッキースケベやサービスシーンという名のみだらな描写が無駄に多い。

 → 本筋に関係のない記述をカットすれば解決。


(2)作者や他の書き手がその作品とは別の作品を書くとき役に立つ批判。

・設定に矛盾がある。

・主人公の能力がチート過ぎて物語に緊張感がない(せめて何か制約が欲しい)。

・なぜか登場人物たちが合理的な行動をとらない(算数ができない、簡単に解決できるはずのことであれこれ悩んでいる、わざわざまわりくどい方法を選ぶ、秘密にすべき能力を特に必要性のない場面で使うなど)。

・主人公の言動が不自然で気持ち悪い(鈍感すぎる、人の心に理解がなさすぎる、学習力がなさすぎるなど)。

・女性キャラクターが主人公を賛美ヨイショするだけの存在になっていて気持ち悪い。

・タイトルを回収した後の展開が場当たり的で、だらだらと引きばされている。


 ⇒ どれも物語の根幹こんかんかかわっているはずなので、作品自体に加筆修正を加えるよりも、他の作品を書くときにかす方が現実的。


(3)読者がその作品を読むとき役に立つ批判。


(4)読者がその作品とは別の作品を読むとき役に立つ批判。


(5)該当なし

・小説投稿サイトの片隅かたすみで連載する分には構わないが、こんなものを書籍化するな。アニメ化して地上波に出すな。



 4種のどれでもないものを「(5)該当なし」としましたが、ここに割り振った批判(こんなものを書籍化するな)は、「作品の内在ないざい的な性質」についての批判というよりも、「作品の社会的な存在意義」についての批判という側面が強いと思います。


 前回列挙した批判の中に(3)と(4)に当てはまるものがなかったので、とりあえず空白にしましたが、「(4)読者が別作品を読むとき役に立つ批判」は、たとえば「この設定や台詞は別作品のパクリだ」とか、「この作品はどうやら別作品のパロディっぽい」といった批判です。

 この種のコメントは否定的な評価としてだけでなく、話の分かりやすさやギャグについての肯定的な評価として書かれることもあるので、一概いちがいに「批判」とも言いがたいのですが、ともかく、コメントを見た人に「じゃあ元ネタを読んでみよう」と思わせうる点では、建設的なところがある批判と言って良いと思います。


 残った「(3)読者がその作品を読むとき役に立つ批判」は、ちょっと分かりにくいかもしれませんが、読者がその作品をより深く読み解くのに役立つ批判という意味です。

 筆者が念頭に置いているのは、たとえば、

「主人公はこの場面で社会的な義務よりも個人的な愛を優先しているが、それは本当に『正しい』決断だったと言えるのか」

「この作品はWeb連載が開始した当時の世相せそうを意識して書かれたものと思われるが、社会状況が変化した近年だと、この世界観やキャラクターたちの振る舞いは読者の共感をあまり得られなくなっているのではないか」

 といったものです。

 普通、異世界転生・チート(無双)・ハーレムがあこがれの対象としてえがかれるテンプレ小説はそこまで深い読解の対象にはならないので、筆者がこの種の批判を見かけたことはまだありませんが、テンプレ小説が文芸に含まれることを考えれば、おそらくどこかでは言われているのだろうと思います。




 前回、テンプレ小説がR18同人誌に近いかもしれないという話をさせていただいたので、今回取り上げた批判に対する反論(書き手さんはきっとこう反論するだろうというシミュレーション)をあつかう必要はもうないと思います。

 書き手さんが異世界ファンタジーのつもりで書いているなら、批判を真摯しんしに受け止めて適宜てきぎ対応するでしょうし、反対にR18同人誌のつもりなら、あまり気にせず好きにすれば良いと思います。




 といったところで、すっかり長くなったので、今回はここで一区切ひとくぎりにさせていただきます。

 次回以降も気長にお付き合いいただけると幸いです。

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