王都へ行こう! その3

 

「あぁ、それと私はエリザベスの後釜で理事になった」

「一番商会にとって大事な話じゃないか!」


 サラッと言うお師匠様。

 正面に座るマイトさんの目つきが変わる。


「学園で使う素材や制服の仕入れ先とか変更出来そうかい?」

「無理だろうな。私は理事の代理だ。次の選挙までの穴埋めでしかない」


 その割には仕事は一人前に回されるんですけどね。

 異世界でも中間管理職は大変そう。


「影響力的にはどのくらいまでいける?」

「生徒達の後ろ盾になれるくらいだな。他所の連中からも手を出しづらいくらいには」


 お師匠様のスタンスはエリちゃん先生と同じ、理不尽な圧力に負けずにのびのびと魔法使いを育成する事。

 勢力争いじゃなくて、魔法使い全体の成長を望んでいる。

 私みたいに爵位が高くない子やアリアみたいな才能ある平民の子を出来る限りサポートしようというのだ。勿論、それなりの恩返しはしてもらうけど。


「マーリンの名前は有名だから効力はあるだろうさ。なぁ、昔馴染みの縁で頼み事をしていいかい?」

「内容によるな」

「大した事じゃない。さっき話した支店の話だけど、ウチの新人は平民でね。魔法についても才能があるとは言えないんだ。そんな彼が権力に屈しないよう守ってくれないか?こちらとしては普通に商売が出来ればそれでいいのさ」

「そのレベルなら大丈夫だな。店の扱いを優遇しろと言われたら断っていたが」

「ゼニー商会を舐めてもらっちゃ困るよ」


 自信満々にマイトさんは言った。

 お師匠様もその返事に満更でもなさそう。

 優秀な人相手だと不機嫌にならないからねこの人は。


「支店がオープンしたら挨拶にこさせるよ。シルちゃんも後輩をよろしくね」

「えぇ。私がきっちり面倒をみて差し上げますわ」

「「不安だな」」


 あん?ちょっと表に出ろや男二人!!












 いくつかの業務について話し合った後、私とお師匠様はお城にやって来た。

 大きな城門が開かれると、そこは国王が住むに相応しい絢爛豪華さ。

 やっぱり何度来ても慣れないわね。


 キョロキョロ周囲を見渡す私に比べてお師匠様は落ち着いている。

 案内をしている騎士の人からすれば、冷静で大人な対応に見えるだろうけど私は知っている。

 飾ってある調度品が魔道具じゃなくてテンションが下がってるだけです。興味無いだけ。


「こちらでお着替えになって玉座の間にお越し下さい。道に迷ったら近くの者へお声掛けを」


 男女で別々の場所に案内された部屋にはクラブが先に持ち込んでくれていた学園の制服が置いてあった。

 本当はダンスパーティーで着たドレスが良かったのだ

 が、ボロボロにしちゃって修復中。

 元より式典用のドレスなんて持っていなかったので結局は制服に落ち着いたのよね。


 クラブはキチンとした礼服で、お師匠様は新しく学園から与えられた理事用のローブを羽織るでしょうね。

 着ていた服を折り畳んで制服を入れていた箱に戻す。


 アリアはこの部屋にいないけど、どこにいるのかしら?

 体調は大丈夫なのか?変な事に巻き込まれていないのか?

 ゲーム主人公ってすぐにあちこちでイベントのフラグを建てるから油断ならないわね。


 そんな事を考えながら部屋を出る。

 式典があるのは玉座の間。一度も行った事ないけど、その辺にいる人に尋ねてって言われた。


「言われたけど人いないじゃん」


 タイミングが悪かったのか、部屋のすぐ外には誰も見当たらなかった。

 困ったわねと窓から外を見ると、庭が広がっていて髭の生えた小太りなおじさんが鳥に餌をやっていた。


 庭師の人かしら?


 とてものんびりしていて優しそうなので聞きやすいわね。

 はしたないけど窓から身を乗り出して外へ出る。誰にも見つからなければ注意されないのよ。


「あの、おじさん」

「うん?ボクの事かい?」

「はい。道に迷っているんですけど玉座の間ってどこです?」


 始まる前にエースやジャックにも挨拶しておきたいわね。


「式典の参加者だね。君がシルヴィア・クローバーさんかい?」

「えぇ。そうですわ」


 私の名前を知っているなんてーーー有名になったわね私も。

 いやぁ、人気者はツラいわ。


「場所を教えてあげるのは構わないんだけれど……ちょっと手合わせしてみてくれないか?」


 はい?


 いきなり何を考えたのか、小太りなおじさんはポケットから杖を取り出した。


「話に聞く実力を試したくてね」

「えっと、今から式典なので服を汚したくないし、疲れたくないんですの」

「残念だけど問答無用だよ」


【小太りなおじさんが勝負をしかけてきた】


 そんなテロップが流れて来そうな場面。

 ごく自然にエンカウントバトル始まったけど、目と目が合ったら戦うルールなんてこの国にありましたっけ?


 おじさんの杖から火球が放たれた。

 私はそれを水魔法で迎え撃つ。


「中々の反応速度だね」

「私と勝負なんて止めた方がよろしいですわよ?怪我するのは嫌でしょうから」


 何が悲しくてお城で魔法バトルをしなくちゃならないのか。

 傷害沙汰なんて勘弁してほしい。


 ーーーけどまぁ、速攻で終わらせればいいわよね。


「えい、えい、えぇい!」

「ははっ。強いね」


 連続しての魔法。杖を持ってきていないから威力は低めだけど、魔力の量には自信があるのでゴリ押す。

 おじさんもかなり強いけど、私の敵じゃなさそうね。


「だったらもう一段階上げて良さそうだね」


 見た目の割に軽やかに杖が振られると、地面が割れて石柱が飛び出してきた。


「多重属性!?」

「そらそらそら!」


 火と土の魔法が襲い掛かってくる。

 切り替えも早いし、狙いも正確だ。


 ただのおじさんと侮っていたら思わぬ実力者だったわけね。

 なら遠慮しないわよ。


「『動くな』」


 魔力を声に乗せて発動させる。

 すると、私の全身から黒いモヤが放たれておじさんの足を包み込む。


「闇魔法!」

「ご名答。まぁ、まだまだ訓練中だけどね」


 クローバー領に戻って始めた新しい練習。

 折角使えるようになったなら使いこなせるようになりたいじゃない?

 トムリドルのような命じるだけで相手を殺すような力は無いけど、目眩しや動きの拘束くらいは出来る様になった。


「トドメよ。くらいなさーー」

「何をしているのですか父上!!」


 両手で風魔法を使っておじさんに空の旅をプレゼントしようとすると、誰かが割り込んできた。

 大きな声を上げて走って来たのは見慣れた銀髪の少年だった。


「お前も何やってるシルヴィア。投獄されたいのか?」

「いや、私はそのおじさんに喧嘩を売られ………」


 私の前でご立腹なジャック。よく見ると金髪で髭の生えたおじさんに目元が似ている。

 それに多重属性持ちだった。

 貴族の中でも歴史や血統が古く、強い権力を持つ家同士が交わると多重属性持ちが生まれやすくなる。

 ジャックやエリスさんみたいに。


 では、そんなジャックが父上と呼んだ相手とは?


「意地悪してすまないね。ボクはレイド・スペード。このお城の主人だ」







 王様相手に魔法をぶっ放しましたけど、破滅フラグ踏みました?





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