第34話 私の生き方。

 

「あー、暇ね」


 学園都市内にある牧場。

 大自然に囲まれて動物達と触れ合える場所に私はいた。たった一人で。

 アリアはあの後も人気で引っ張りだこ。それでも私の近くにいてくれたけど、今日は他のクラスの子から誘われて遊びに行っている。


『お姉様もご一緒にいかがですか?』


 そう誘ってくれたのは嬉しかったが、アリアを誘った子達は凍りついていた。

 貴族じゃない子達のグループだったから緊張してしまうと考え、断った。

 クラブとは手紙のやり取りだけだし、ソフィアは毎日忙しそう。王子二人は右へ左へ勢力拡大対決。

 友達が増えない。理由は不明。さっぱりわかりません。

 おかげでやる気が全く出ない。


「シャー♪」

「よしよし、いい調子ねエカテリーナ。締め付けで岩を砕くなんて。人間の骨なんて簡単に折れるようになったわね?」


 人がいないのでこうしてペットと触れ合うことしかできない。

 寮の自室だと狭いし、校舎内で連れ歩くとパニックになるからこうやって広くて動物が他にたくさんいる場所でしか放せないからね。


「ホッホッホッ。今日も元気そうじゃの君は」


 のんびりと触れ合いを楽しんでいると白髭の一人の老人が話しかけてきた。

 初めてこの牧場を訪ねて散策していた私に施設を案内してくれたお爺ちゃん。名前こそ知らないが、こうして牧場内でよく見かけて声をかけてくれるとこから察するにここの管理者か職員なのだと思われる。


「あんまり元気じゃないわ」

「そうかの?……岩を砕くのはいいが後片付けはするんじゃよ?」


 指摘されたので、土魔法を使って地面に穴を開けてそこにエカテリーナが岩の破片を投げ入れ、処理が終わるとまた魔法で穴を埋める。


「魔法の方は調子が良さそうじゃの」

「これくらい朝飯前よ。元気じゃないのは精神的な問題ですわ」


 予想外の事態ばかりでゲームの知識は役に立たないし、もっとワイワイとするはずだった学生生活はボッチでペットと戯れる始末。

 内弁慶で積極的になれない。日本にいる頃と大差ないのだ。


「いつも一人じゃが、友達はおらんのかい?」

「いますわ。数は少ないですが」

「喧嘩したとかかの?」

「いいえ。仲は良好で最近は忙しそうだから距離が離れているだけです」

「数人もいるのに?」


 数人って、ソフィアとアリアだけよ学生は。

 エリちゃんは簡単にホイホイ会えるような立場の人じゃないし、お師匠様は気軽な友達の枠じゃない。大人枠か保護者枠。

 あとは……昔の友達か。王子二人。


「そうね。他の友達とは昔は仲良かったけど今は疎遠ね」

「そちらは喧嘩かの?」

「お爺ちゃん。私をなんだと思っているのよ。喧嘩なんてあまりしないわよ私」


 私は平和主義なのだ。


「そりゃすまんの。儂はいつも誰かと喧嘩してきたからの。それくらいしか思いつかんのじゃ」

「驚いた。そんなのと無縁に見えるのに」

「よく言われるのぉ。本当は好戦的じゃよ儂。譲れないものもあるし、叶えたい夢もあるからの。反発が大きい分、どうしても喧嘩せざるを得ぬからの」

「叶えたい夢ね……」


 この世界での夢。

 成績上位で卒業すること?

 それはお師匠様からの圧力なので違う。


 家族と仲良く平和に暮らす?

 それは勿論なんだけど、夢にするようなことじゃない当たり前にしたい目標。


 破滅フラグの回避?

 生きるための手段。そうじゃないと夢も目標も達成できないから。


 ……中々見つからない。

 一番夢に近いのは家族と仲良くだけど、情熱を注ぐ夢かと言われると当て嵌まらない。

 やりたい事、


「儂の夢はこの学園都市が世界で一番凄い場所になることじゃよ」

「凄い壮大ね。私は………」


 初心に戻って考える。

 破滅フラグを回避して平和に暮らすのは前世で女子高生までしかいられなかったから。

 だから今世は、玉の輿に乗って毎日贅沢三昧をして人をこき使ってやるくらいの意気込みだった。

 そう、地味だった自分と違う派手で波乱万丈な人生を送りたかった。


「私ってば刹那的快楽主義者かもしれないわ」

「ほほぅ?」

「私ね、楽しく生きたい。その瞬間にやりたい事やって我儘行って、激しく燃えるような恋もしたい。自重なんてしないやりたい放題で」

「ホホッ!まるで王様みたいな夢じゃの」

「そうね。権力は欲しいわ。自由な身でいたいし」


 その瞬間、瞬間を必死に生きる。

 それが私の夢、生き様にしたいこと。


「なんだかそう考えるとやる気が湧いてくるわ。こんな所で休憩していないで大暴れしたい気分ね」

「気分だけにしておいておくれ。ここら一帯を荒野にされたら儂が困るから」


 失礼ね。私は災害じゃないわよ。


「しかし、そうまで活気があると儂も負けていられないの」

「お互いに頑張りましょうよお爺ちゃん」

「そうじゃの。一丁、派手にやってみようかの」


 なんだかよく分からない内にお爺ちゃんまでやる気になってきた。


「水を差すようだが、何をするか事前に私に教えてくれると助かる」

「うげ、お師匠様」


 ぎこちなく後ろを振り向くとご機嫌斜めなお師匠様が立っていた。


「全く。うちの弟子を焚きつけるような真似はお辞め下さい理事長。ただでさえ調子に乗って失敗するタイプなので」

「君は手厳しいの。それじゃあ人生楽しくないぞ。失敗は成功の母と言うからの」


 今、お師匠様の口からとんでもないビッグワードが出たわよね。

 理事長?


「お爺ちゃん、もしかして偉い人かしら?」

「この方はアルバス・マグノリア理事長。理事会のトップで魔法学園の最高権力者だ」

「バレてしまったの。シルヴィア・クローバーくん。君はいずれ大きな流れの中で活躍する存在じゃ。心配せんでも君は退屈せん人生を送れるよ。では、失礼するぞい」


 お爺ちゃん、もとい理事長は懐から杖を取り出して振るった。

 するとそのまま自分の影の中に沈んで消えてしまった。


「影を応用した移動魔法。範囲は学園都市内での限定とはいえ、流石としか言えんな」

「瞬間移動って、お師匠様も出来ない魔法ですわよね?」

「似たような魔法は研究中だが、理事長は特別な属性だ。だからこそ可能なのだろう」

「特別な属性?光属性ですか?」

「いいや。光属性もだが、……多重属性の極みである完全属性だ」


 完全属性。一度聞いたことがある。

 多重属性と多重属性の結婚を何代も重ねてその中でも奇跡としか言えない確率で発生する属性。

 あらゆる属性を持つ完全属性。魔法使いの極み。


「現在の魔法使いで完全属性なのは理事長だけだ。あの人は魔法に愛され、魔法を愛し、この学園を何十年間も運営している。理事長になるには理事会の選挙で選ばれる必要があるが、それが意味を成さないレベルだ。エリザベス先生ですら敵わないと言う人物だ」


 ……チートってお師匠様のことを言うのに、それより上の人がいたなんて。

 バグね。バランスブレイカーどころじゃないわ。


「全く、そんな人物をお爺ちゃん呼びだなんて君はどこまで自由なんだ」

「知っていたらキチンとしてました。向こうから名乗ることなんてなかったですもの」


 確かに学園の入学式の時に挨拶してたような気もするけど、あの時は立派な服に大きなとんがり帽子を被っていたから顔がよく見えなかった。


「まぁいい。君が理事長と何を話していたか気にはなるが、私から言えるのは一つだ」

「何ですか?」

「理事長にはあまり近づくな。遥か高みにいる魔法使いはそれだけで人を惑わす。君のような影響を受けやすい子は特にだ」


 真剣に。真面目に忠告してくるお師匠様。

 中々見ないくらい真っ直ぐな瞳でこちらを見てくる。

 確かに不思議な魅力やオーラがあるお爺ちゃんだった。でも、私は特に自分に何か変化があったようには思わない。


「大丈夫ですって。私はいつも通りですわ。ところで、こんなとこまで来て私に何か用ですか?」

「あぁ、大した用ではないがな。君に私の助手として授業を手伝ってもらいたいクラスがある」


 完璧超人のお師匠様が人の手を借りるような事があるなんて……。

 一体、何が。


「赤点補習の生徒が多いクラスなのだが、私では彼等が何故赤点なのかが理解できん。似たようなバ…考え方の君ならどうにかしてくれるかもしれないと思った」


 バ…、の後に何を言いかけたか気になるけどあえてスルーしますわ。


「分かりました。引き受けますわ。それで、いつからお手伝いすればいいんですか?」

「そうか。では頼む。補習は今からだ。既に生徒を待たせてあるから向かうとしよう」


 今から⁉︎


 なんというか、私もお師匠様を振り回すことがあるけど、お師匠様も大概だと思いました。


























「シルヴィア・クローバー。予想以上の子じゃな。今後が楽しみじゃい。……しかし、誰も来ないように結界を張っていたのじゃがな。流石は妖精の子というところかの。……鋭いところは注意しないといけないようじゃの」




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