第32話 こんな召喚獣なんて聞いてませんわよ⁉︎

 

 アリア見守り隊が結成されたわけだけど、私に出来ることは特に無いし、お師匠様達も何かをすることなく普段通りの特訓だけが続く。

 クラブとジャックの後ろについて歩く生徒の数は日に増していった。

 そしてそれに対抗するかのようにエースの周囲に目を光らせる親衛隊?ファンクラブ?も結成され、王子二人を中心とした派閥がそれぞれ結成されつつある。

 今はまだ貴族達が中心となっているが、しばらくもすれば平民の子達も巻き込んでの勢力争いが勃発しそうね。


「お姉様はどちらにつくんですか?」


 教室の隅で立ったまま考え事をしている私にアリアが話しかけてきた。


「私はどっちもお断りだわ。得しないもの」


 ジャック側へ行けば邪険に扱われ、エース側では牙を剥かれる。

 この二人に関わろうとすると7年前の二の舞になる確率が高い。


「アリアは気になるの?」


 クラブとジャック、そしてエース。

 本来であればこのメンバーの中からアリアの運命の相手を一人選んで攻略を進めなくてはならない。そしてそこに私が立ち塞がるのだ。

 それなのにアリアはあっさりと横に首を振った。


「お貴族の、それも王子様だなんて関わりたくないです。わたしはただの田舎娘だから。……クラブさんはお姉様が家族になるというなら」

「私が本命でクラブがオマケなのね。それはあの子が不憫になるから止めてあげてね」


 何をどう間違ったか百合ルート真っしぐらな少女。

 最近ではソフィアとどちらが朝に私を起こしに来るかで競い合っているとか。何やってるのよ、うちのメイドは。

 攻略キャラ達が主人公に見向きもされない状態なんて予想できた?一目惚れとか無かったのかしら。


「あの三人じゃないならアリアはどんな人がタイプなのかしら?」

「うーん、そうですね。わたしはお金持ちじゃなくて、貴族じゃなくても良いから家庭を大事にしてくれてキチンとした職に就いてる便利な魔法が使える大人な人が好みですかね」


 理想の男性像に特出して難しい条件が無い。そして、その条件に合いそうなアリアの周囲にいる男性ってお師匠様じゃない?

 私の事はぞんざいに扱うけど、光の巫女としてアリアに紳士的に付き合っている。魔法学園の教師なんて公務員クラスだし、四属性持ちでオリジナルの魔法や魔道具まで製作している。

 二人が結婚して子供を育てている光景を想像しても悪くはないし、そういうのもアリ……かなぁっては思う。


 あぁ見えてお師匠様は小さな子供には甘いというか優しい所があるし、教育パパっぽくなりそうな気はする。

 年の差も世間的にも許容範囲だろうし、イケメンと美少女の子とか顔面偏差値高そう。


「………お師匠様とかいいんじゃない?」

「あっ…いえいえ!!マーリン先生は良い人ですけど全然そういう対象じゃないですから!これっぽっちも興味ないですし、やっぱりお姉様みたいな方がわたしのタイプですよ?さっきのは前言撤回です!」


 これでもかとお師匠様をディスるアリア。

 そこまで拒絶されるなんて気の毒ねお師匠様。


「ふふふ。お似合いだとか思ったのにね」

「冗談キツいですよお姉様。マーリン先生なんてないない。それだったらまだ野生の猿の方がマシですから!」


 そこまで言う⁉︎


「猿以下ですまないな。授業を始めるから席につきなさい」

「「っ⁉︎」」


 気配を消して背後に現れた声の主。

 そういえば次の授業って……。


「こんにちわですございますわ。お、お師匠様」

「こんにちわわで、です。マーリン先生!」


 さっきの話を聞かれたせいで口から変な挨拶が出てしまう私達。


「こんにちわ。では授業開始だ」


 他の生徒と同じようにいそいそと席に座ります。

 お師匠様が私達の授業を担当するのは今日が初めて。簡単な自己紹介から始まり、出席を取り終わると授業内容の発表があった。


「私が本日担当するのは召喚魔法についてだ。皆も知っての通り、ポピュラーな魔法で危険性も少ない。本来なら学期末にやる予定だが、今年は早目にやることにした。お試しの体験版のようなものだ」


 召喚魔法。私のエカテリーナやお師匠様のワンちゃんみたいに魔力を糧にして呼び出された従僕。

 召喚主の実力や成長によってサイズや能力に変化がある不思議な不思議な生き物。


「今回は現段階での君達の実力を知るための目安になる。魔法陣はこちらで用意するから手順や注意事項をしっかり覚えるように」


 黒板に召喚魔法のあれこれを書いていく。

 みんなはそれをメモしながら笑っていた。ワクワクしているみたいね。

 私は普段からやっているし、何なら常時呼び出し中だから新鮮味は無いわね。


「では、一人ずつ前へ」


 名前を呼ばれた子が教壇近くへ行き、お師匠が用意した魔法陣に魔力を流す。

 呼び出された召喚獣は猫や鳥や牛なんて子もいた。

 縦ロールは張り切って召喚したのに、出てきたのはネズミで悲鳴を上げていた。

 本人の性格って反映されるんじゃないかしら?と鼻で笑っておく。


 次はクラブの番。

 私がエカテリーナを呼び出すのをよく見てたが、クラブ自身が召喚するのは今日が初。

 光り輝く魔法陣の中から現れたのは雄々しく羽を広げたタカだった。


「風属性の者は鳥類を呼び出しやすい。その中でも鷹は上位の立場だ。良い召喚獣だ」

「ありがとうございます」


 お師匠様が褒めると周囲から拍手が起こる。

 私も結果は知っていたけど、弟が称賛されると我が身のように嬉しいわね。


「では、ジャック・スペード」

「ふっ。オレ様の召喚獣は一味違う獣だ」


 自信満々に魔力を流し込むジャック。

 召喚ガチャの結果、出現したのは私が知っているゲームと同じ虎だった。


「ガォオオ!!」

「虎か。大きさからしてもかなり強い。猛獣系はしっかりと躾けておかないと暴れることもあるから覚えておくよう。合格だ」

「当然だ。オレ様に相応しい獣だ」


 ジャック派から歓声が上がった。

 となると、心配されるのはエース。親衛隊の子達も固唾を飲んで見守る。


「いきます」


 落ち着いた様子のエースが魔力を込めるとジャックと変わらないくらいの光の輝きの中から立派なたてがみのライオンが登場した。


「獅子と虎か。王子達二人共、王家が呼び出す召喚獣として相応しいものだ」


 ジャック派からは悔しがるような声が漏れ、エース派からは安堵のため息。

 露骨に別れてきたわね、このクラスも。


「続いてはアリアくん」

「はい!」


 アリアの挑戦。

 ゲームのままだとここで彼女は召喚に失敗してしまうのだけど、今日はお師匠様が授業を担当している。

 ここも原作と違う点だ。


「もっと魔力を込めて…そう、その調子だ」


 杖に魔力を流す練習をしていたおかげか、そこまで苦戦せずに必要分を投入、魔法陣が発動する。

 召喚に成功するならば純白の白馬が現れるはずなのに様子がおかしい。

 魔法陣の光の渦が虹色になって回転し始めたのだ。

 初めて見る光景にクラス中が注目する中、私は既視感を得た。

 虹回転って最高レア確定のガチャ演出じゃん。


「ヒヒーン!」


 光の渦が弾け、中にいたのは私の知っている召喚獣より少し小柄な白い毛並みの馬。

 だが、一番注目するべき点は白馬の頭部だった。


「一角獣……ユニーコーンとは驚いた」


 可能性の獣。幻獣クラス。処女厨。

 とにかく見た目からして、存在感からしてこのクラスの誰よりも目立つ生き物が召喚された。


「ヒヒーン♪」


 ユニーコーンはアリアに近づくとその顔をベロベロと舐め始めた。

 唾液でべとべとになるアリアはお師匠様に助けを求める。

 召喚獣は呼び出した本人が帰れと命令すれば消えるのだが、アリアのは消え去る最後まで舐め続けようと舌を伸ばしていた。最初から者凄く懐いている。


「今のユニーコーンは私も実物を初めて見た。是非今度、研究させてくれないか」

「わかりました。……うぅ、お風呂に入りたい」


 ちょっとお師匠も興奮気味だったが、私はドン引き。

 白馬とユニーコーンって格が違うしゲームよりパワーアップしてるってどういうことよ?

 これはもう、私よりアリアがチートよね?転生補正を主人公補正がぶっちぎってる。私が頑張れば頑張るだけアリアは上を行く。


「最後はシルヴィア」

「へーい…」


 すっかりやる気を無くした私。

 お師匠様も一番召喚に慣れて、サイズも大きな私のエカテリーナを最後に回してくれたようだけどユニーコーンの後だと分が悪いわ。

 ざわざわと騒つく教室の中でいつも通りに召喚陣に魔力を流し込む。

 影から出す手もあるけど、今日はみんな初回なのでそれに合わせて私も魔法陣から召喚する。


「ちょっと本気出そうかしら」


 折角、最後にしてもらえたのに盛り上がらないとつまらない。

 そう考えた私はありったけの魔力を全力で注ぎ込むことにした。


「シルヴィア。余計なことは」

「見ていてくださいませ」


 全力全開で流し込めるだけ注ぐ。

 感覚的にコップのギリギリ、表面張力の限界まで魔力を放出する。

 すると魔法陣は虹色にこそ輝かなかったが、いつもと変わってバチバチと音を立てて光の渦が荒れ狂う。

 キタキタ、キマシタワー!!


 さぁ、出てこいエカテリーナちゃん!

 そう期待した次の瞬間、魔法陣がピタッと光るのを止めて急停止した。








 こうして私は無駄な魔力を大量消費してクラスで唯一の召喚失敗者となりました。

 やったね!オチがついたよ?







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