第8話 告白

 白エルフの敗走を決定付けた大規模な交戦。それが王都決戦だとされている。以来、戦争は、各地に散った『白』の残党とそれを駆逐くちくしようとする『黒』の間で泥沼化している。

「私の家族も、ずっと王都で暮らしていたのです」

 ぽつりぽつりと、ディニエルの告白は続く。

「父は腕の良い金工きんこうでした。『黒』の兵士から母と幼い私をかばって、死にました。目の前で。私……、何もできなかった」

 ヴェストリがさずけた水晶を、ディニエルは震える手で握りしめる。

「生き延びた母と私は、辺境にある別の白エルフの里へ隠れました。けれど、そこもあの黒い炎に焼き払われて、私、一人だけ逃げて……」

 ヴェストリはまた杯を空けた。安易な慰めなど言えない。親父さんは金工か、と話を変えた。呂律ろれつが怪しくなってきた。

「『大親方ヴァルチュオルゾ』の叙勲じょくんだってんで王宮に行かされた時、儀式にまねかれてたエルフの王族を見たが、身に付けてた宝飾品の見事さといったらなかったな」

 ディニエルが涙目を瞬いた。

「心をつかまれたってのかな。ドワーフにゃ作れねえと思った。そう思っちまったことが悔しくて、頭が一杯になって、叙勲どころじゃなくなってよ。階段踏み外すわ挨拶あいさつは忘れるわ」

 初めて声を出して笑ったディニエルに、ヴェストリも笑い返した。

「ドワーフの伝説じゃ、この世のすべては女神が生み出したことになってる。元は何もかも一つだったんだと」

「エルフにも、似た伝説があります」

「そうなら、なあ、エルフにできることが、ドワーフにできたって、いいじゃねえか」

「ええ。そうですね」

「種族は違っても、こう、ずっとずっと奥の、深い深い所でよ、互いに何か通じる物があってもいいはずだろ」

「そうかもしれません」

「だからよ、分かるだろ。俺にゃ、止められなかったよ。融和ゆうわは成る、なんて言う息子をよ……」

 やっぱり俺の子だと思ってよ。

 つぶやきながら、我知らずヴェストリは卓にうつぶせ、そのまま眠ってしまった。

 まばゆい光の中で女神らしき存在の前に歩み出るという夢を見た。

 勇気をふるい起こした彼が、恐れながらお尋ねしますと口を開いた瞬間、辺りは暗転した。

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