脅迫
結・・・。
誰かが、俺を呼んでいる。
結・・・。
誰だ・・・?
「結!起きろ~!!」
「うぉわ!!?」
ガクガクと体を揺さぶられ、頭の真上で叫ばれる。
ビックリして飛び起きると、目の前に歌恋が仁王立ちしていた。
「な、なんだ歌恋か・・・ビックリするだろ。」
「だって結が全然起きないから・・・。」
いつの間にか眠っていたらしい。
でもまだ眠たい・・・昨日はあまり眠れなかったからな・・・。
「なんか結、今日眠てばっかりじゃない?・・・もしかして体調悪いの?」
心配そうに俺を見てくる歌恋。
珍しい事もあるもんだな・・・失礼か・・・。
「いや大丈夫だよ。ちょっと昨日中々寝付けなくてな。」
「そう?ならいいけど・・・。」
歌恋の心配を他所に、俺は今日の昼休みのほとんどを眠て過ごした・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふぁぁ~ああ、眠たい・・・。」
放課後、未だに眠たい俺は愛衣子さんとの待ち合わせ場所へと向かっていた。
本当は帰って眠りたかったが、愛衣子さんとの時間は大事にしたかった。
昨日の事があったから尚更・・・。
しかし、こんな状態で俺は愛衣子さんに会って大丈夫だろうか?
忘れようと言ったのは俺だが、そんな簡単に忘れられるのなら苦労はしない。
愛衣子さんの顔を、まともに見られるだろうか・・・。
そうこうしている内に、待ち合わせ場所まで来てしまった。
「あっ、結君!」
「愛衣子さん!」
先に待っていた愛衣子さんが俺に気づいて手を振っている。
俺も手を振り返した。
「ごめんね、遅くなって・・・。」
「ううん!私が早く着きすぎたから。」
愛衣子さんの方へ駆け寄って行くと、愛衣子さんは笑顔でそう言ってくれた。
・・・うん、大丈夫だ。
この笑顔が見れれば、すぐに忘れられる・・・。
ふと、辺りを見渡す。
いつも愛衣子さんと一緒にいる凛が見当たらなかった。
「愛衣子さん、今日凛は・・・。」
「今日は予定があるから帰るって、走って帰って行ったよ?」
それは今の俺にとっては助かる事だった。
前の様に友達として振舞えるか、正直自身が無かったから・・・。
いや、止めよう。
愛衣子さんと一緒に居る時は、愛衣子さんの事だけ考えていよう。
その後俺達は、久しぶりに二人の時間を満喫した・・・。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
愛衣子さんと別れた帰り道、俺は清々しい気分だった。
「やっぱり愛衣子さんと居ると楽しいな。眠気も吹き飛んだし。」
そのまま足取り軽く家へと向かっていると、目の前の道を塞ぐように立っている人影が・・・。
「っ!!・・・凛。」
「やっほ~!結!」
凛だった。
いつも通りにおちゃらけた感じで返事をする凛。
少しだけ安堵した。
約束通り、凛は昨日の事を忘れてくれようとしているのだと・・・。
だから、俺もいつも通りに・・・。
「今日も愛衣子とデート?イチャイチャだねぇ~!」
「あぁそうだよ。愛衣子さんとは恋人なんだから、デートしても良いだろ。」
「あはは!そうだね!」
あぁ、落ち着く。
凛とは気さくに話せる友達でいたい。
冗談を言い合える、そんな仲で・・・。
「凛は何か予定があるんだろ?愛衣子さんが言ってた。もう済んだのか?」
「ううん、これからだよ。」
「そうか・・・。じゃあ、俺は・・・」
「愛衣子と一緒・・・、これから結とデートなんだ❤」
帰ると言おうとした瞬間、凛の口からそんな言葉が放たれた。
思考が停止した・・・。
約束・・・したはずなのに・・・。
「・・・・・・凛、そう言うのは止めろって・・・言っただろ?」
「まぁデートって言っても、私達の場合はお家デートだけどね❤」
「凛っ!!」
凛の肩を掴む。
歯を食いしばって、凛を睨む。
止めてくれと訴えかけるように・・・。
「約束・・・しただろ。一度きりだって・・・。だから・・・」
「一度きりって、これの事?」
そう言って、凛が鞄から取り出して見せたのは・・・ビデオカメラ。
昨日のとは違う・・・。
嫌な予感がした。
まさか・・・まさか・・・。
凛が再生した映像を俺に見せてきた・・・そこには・・・、
「なんで・・・なんでだよ凛!!」
「綺麗に撮れてるでしょ?私と結の、初めて❤」
昨日の一度きりの関係が映し出されていた・・・。
凛の肩から手を離し、思い出したくも見たくも無いそれを流すビデオカメラを奪おうとする。
しかし、ギリギリで掴むことが出来なかった。
「ねぇ結、また私の家に来てくれる?」
映像を見せながら、俺に問いかける凛。
俺は、膝から地面に崩れ落ちた。
そして、縋る思いで凛にお願いした。
「頼むから凛・・・お願いだから、もう止めてくれ・・・。これ以上、愛衣子さんを裏切りたくないんだ・・・お願いだから・・・」
凛の足元を見ながらそう言った。
すると、凛が言った・・・。
「結、顔を上げて?」
言われた通り、顔を上げて凛を見た。
未だに映像を流している凛が俺に与えたのは・・・、
「私の家に・・・来てくれるよね?」
選択肢など無いも同然の言葉だった・・・。
俺は凛を見ながら・・・涙を流していた。
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