理由
凛が笑顔で俺を見つめている。
そして俺は、凛の手元を見つめていた。
・・・違う、目が離せなかった。
「り、ん?何でそんな、もの・・・えっ?」
わけが分からなかった。
そんな物を持っている事も、そもそも何故撮っていたのかも。
同時に気づいた・・・、凛がさっき俺を待たせて部屋の中で何をしていたのかも・・・。
「結、私の言う事何でも聞いてくれるって言ったよね?だったらさ・・・・・・私とシてよ。」
「っ!!?」
凛の言った言葉に耳を疑った。
俺も幼い子供じゃない・・・、言葉の意味ぐらい分かっている。
・・・分かっているから、問題なんだ・・・。
「はは・・・、凛、流石にそれは笑えないぞ?そう言う事言うのは良くないって・・・。」
冗談を言っているんだと思った。
いつもおちゃらけている凛の冗談だと・・・思いたかった。
「冗談だと思ってるの結?流石の私でも、ここまで手の込んだ事しないよ?」
「凛・・・」
いつもの凛じゃない・・・。
そんな事とっくに分かっている。
俺の知っている凛はこんな事しない・・・、調子に乗って、よく男子と間違われて・・・、でも友達思いで、俺と愛衣子さんの仲を取り持ってくれたりもしてくれた・・・。
なのに・・・なんで。
「なんでだよ、凛。・・・俺達は友達で・・・凛は愛衣子さんの、友達だろ?・・・なのに、なんで・・・」
目の前に立っている凛に疑問を投げかける。
凛は、ゆっくりと話し始めた。
「私さ、初めて愛衣子から結を紹介された時、ちょっとだけ不安だったんだ。」
「えっ?」
「愛衣子ってさ?すっごく良い子じゃん?・・・だから、付き合う事になった奴がどういう人なのかって心配になってさ。」
話ながら俺の隣に座る凛。
「もしそいつがどうしようもない様な奴だったら私が愛衣子から引き離してよるとか考えてた・・・。」
「・・・。」
「でも、結を見てたらそんな事考えてた自分が恥ずかしくなった。・・・優しいし私が調子に乗りすぎても怒らないし、私の事ちゃんと女子扱いしてくれるし、何より結の笑顔、とっても素敵だなって思った・・・。」
同じことを、愛衣子さんにも言われた。
自分ではよく分からないけど・・・。
「それから結と会う度に、どんどん結の色んな事を知っていって・・・・・・私、結の事が好きになってた。」
「っ!?・・・凛?」
「ダメだって思った・・・、だって結は愛衣子と付き合ってて、私は愛衣子の友達・・・。何度も何度も何度も諦めようと思った・・・けど、もう手遅れだった・・・。」
凛が、手にしていたビデオカメラを俺の目の前でチラつかせる。
「ねぇ結・・・、一度だけ・・・一度限りでいいからシて?・・・じゃないと私、これを愛衣子に・・・」
「やめっ!?」
凛の手から奪おうと手を伸ばした・・・しかし、その手は空を掴んだ。
逆に、伸ばしたその手を凛に掴まれた。
「そんなの困るよね?だから・・・ね?」
俺は、愛衣子さんには笑っていてほしい。
他愛もない会話でも、ただ一緒に居るだけでも、目が合った時にも、笑顔でいてほしい。
こんなもの愛衣子さんに見せられたら、その願いは一瞬で崩れ去る・・・。
そんなの、ダメだ。
俺は・・・、俺は・・・。
「・・・・・・本当に・・・一度だけだ・・・。」
「結❤うんっ❤」
凛が俺に抱き着いてくる。
俺は抱き返す事も無く、唯々涙が出そうになるのを我慢していた・・・。
「結、こっち向いて・・・。」
「・・・っんん!・・・んっうう・・・。」
「ちゅるる❤ん~ちゅっ❤」
俺から離れたと思うと、いきなりキスをしてくる凛。
強引に舌をねじ込んできた・・・。
「ぷあっ・・・へへへ❤キス、しちゃったね❤」
「・・・・・・。」
「じゃあ、結・・・ベッドで、シよう❤」
ベッドに寝かされ、凛が上に四つん這いになって覆いかぶさる。
「結・・・大好きだよ❤」
一度だけだ・・・。
この一度だけで、愛衣子さんの笑顔が守れるなら・・・・・・俺は。
この日俺は、友達だと思っていた人と・・・・・・体を重ねた・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「結、もう帰るの?」
凛が俺にそう言ってくる。
行為が終わってすぐ、俺は脱いだ服を着直して帰ろうとしていた。
平然としていられるはずが無かった・・・。
「ねぇ結、よかったら泊って・・・」
「凛・・・さっきのビデオカメラ、貸してくれ・・・。」
「・・・はい、これ。」
未だに何も身に着けず裸の凛が、後ろから俺にビデオカメラを手渡してきた。
俺は凛を見る事も無く受け取ると、慣れない操作であの映像を消去した。
そして凛にビデオカメラを返した後、約束させた。
「今日の事は忘れよう・・・それと、愛衣子さんには絶対に言わないって約束してくれ・・・凛・・・。」
「・・・・・・わかった。」
「・・・じゃあ、もう帰るよ。」
そのまま部屋を出て行こうとした。
「結。」
凛に呼び止められる。
ドアノブに手を掛けたまま立ち止まる。
「私は結にとって何?」
「・・・・・・友達・・・だよ・・・。」
「だった」と、言いかけて抑え込んだ・・・。
それで俺と凛が距離を置いてしまっても、愛衣子さんが悲しむと思ったから。
あんな事をしてしまっても、俺は凛とは友達として顔を会わせなければならない・・・。
どれだけ時が経ったら、今日の事を忘れられるのだろう・・・・・・。
そのまま静になった部屋から、俺は出て行った・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
結が帰ってしまった後、私はテレビの裏をゴソゴソと探っていた。
そして・・・、
「ハハハ、アハハハハハ!!アハハハッ!!」
笑っていた。
結とキスしたから。
結の体を弄ったから。
結と体を重ねたから。
けれど一番は・・・結が私の言う事を聞いてくれる「モノ」を手に入れたから・・・。
「結は本当に優しいね。私の事を、まだ友達だって言ってくれる・・・でもね結、私は友達じゃダメなんだ・・・。」
手にしていたもう一台のビデオカメラを再生する。
そこには・・・、
「ごめんね愛衣子・・・結は・・・私が貰うね❤」
私と結が体を重ねているのが、ハッキリと映っていた・・・。
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