第187話 宝物庫の管理はガバガバ

 体質的に入浴を楽しめていなかったクリム達は、場を繋ぐために適当な雑談をしていた。そしてサテラに対するクリムの認識が話し終わった辺りで、聞き耳を立てていたサテラ本人が会話に加わるためににじり寄ってきたのだった。ちなみに、サテラについて回っていたスフィーも一緒である。


「何やら面白そうな話をしていますね。私達も混ぜてもらっていいですか?」

 サテラはクリムの話がひと段落したところを見計らって声を掛けた。

「それは構わないですけど、龍の巫女であるあなたはグラニアから色々教わっているでしょうし、特に目新しい話は無いと思いますよ?」

 クリムはドラゴンについてよく知らないシュリに基礎知識を教えると同時に、クリゾンを長とする彼女達の組織が、他のドラゴン達とどういった利害関係にあるのかを話していたのだが、その主な目的はシュリが敵味方の区別が付かない状態で他のドラゴンと接触する危険性を考慮したためであった。しかしそれらは、龍の巫女であるサテラなら当然知っている程度の話ばかりなので、彼女が会話に参加しても特に得られるものはないだろうとクリムは考えたため、一応断りを入れたのだった。

「いえいえ、たしかに知識としては知っている話かもしれませんけど、私は異種族から龍化したタイプのドラゴンはほとんど見たことが無いですし、昨日話した通り、数世代前の龍の巫女が討伐したのを最後に悪龍の出現報告はありません。龍の巫女は人類に仇成すドラゴンを主として、人の手には負えない危機に対抗するための、人類側の切り札としての役割を期待されているわけですが、平和な現代においては龍の巫女に助けを求める人はほとんどいないですし、いまいち実感がないんですよね。なので後学のためにも、実際に悪龍やその他のドラゴン達と対峙してきたエコールのお話を聞くことで、きっと何かの役に立つと思うんですよ。」

 サテラは自分自身に関する話に言及するのは気恥ずかしかったので、それらしい理由を付けて会話への合流を試みたのであった。

「そうですか?まぁそういう事なら、少しはためになりそうな話でもしましょうか。」

「はい。よろしくお願いします。」

 クリムが改めて確認すると、サテラはにこやかに頷いたのだった。

 クリムは先述の通りサテラの事を後輩あるいは妹の様に感じているので、彼女の成長に寄与するのならば、協力するにやぶさかではないと考えていた。またクリムにはクリムゾンと戦ってくれる相手を探すと言う、サテラやセイランには公言している目的があり、なおかつサテラは既にクリムゾンへの挑戦を約束している状態である。クリムが想定するサテラの強さは龍の巫女の特性を鑑みれば、恐らく現人類最強の有望株であるため、彼女がより強くなる手助けをすることは、クリムにとっても利益のある行為なのだ。


 サテラとスフィーが加わり少々状況が変化したため、クリムはどんな話をするべきかと頭を悩ませていたが、ひとまずサテラがどの程度の知識を有しているのか確認し、それから改めて何を話すか決めることにしたのだった。

「先に確認しておきたいのですが、サテラは最後に現れたという悪龍がどんな人だったか知っていますか?」

 一応おさらいしておくが、人間がドラゴンを数える際には一匹あるいは一頭と動物を数えるのと同様の助数詞を用いるが、ドラゴン同士の場合は1人2人と言った具合に人数を用いる事は以前に述べている。またそれだけにとどまらず、あの人この人と言う様な人称代名詞にも、ドラゴン達は人間同士が互いを呼び合うのと同様の呼称を用いているのである。

 余談はさておき、クリムの問いかけにサテラが答えた。

「記録上最後の悪龍は邪龍ファーヴニルだと聞いていますよ。エコールが何度も戦っている相手ですし、どんなドラゴンなのかはクリムさんの方が詳しいんじゃないですか?私が知っているのは記録上の、あるいは人づての話ばかりですからね。」

 サテラの答えを聞いたクリムは少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐに平静な顔に戻り言葉を続けた。

「なるほど彼でしたか。」

 クリムはぼそりと呟くとほんの数瞬だけ目を瞑り思考を巡らせ、その後ゆっくりと目を開いてさらに続けた。

「ファーヴニルが再び現れたと言うことは、黄金の指輪が持ち出されたのですね。魔剣グラムとバルムンクの件にしてもそうですが、グランヴァニアの宝物庫に保管されていたはずの物が、いくらか紛失しているのかもしれませんね。私は今や王国との直接の繋がりはありませんから、部外者があまり口出しするのもなんですが、一度宝物庫を調査した方がいいと思いますよ。あそこにはいろいろといわく付きの呪具やら魔道具がたくさんありますからね。」

「わかりました。後で王国の方に連絡しておきます。」

 サテラはクリムの忠告を素直に受け入れ、宝物庫の調査を約束したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る