第4章 魔剣に導かれて
第100話 間もなく到着
―――場面は再びクリム達の船旅へと戻る。
クリムゾンの魔力によって自然界では生存不可能の個体・
そしてマナゾーとのひと騒動を終えたクリム達一行は交易船へと戻ってきた。
「おかえりみんな。随分時間がかかったけど何があったんだい?」
船に戻ると今回の護衛依頼の元請けでもある四大龍セイランが待ち構えており、サテラに対して襲撃者の撃退報告を求めた。
「襲撃者が結界に引っかかったので撃退に出ていたのですが・・・こちらの話は少し長くなるので、先に航海状況を教えてもらえませんか?みなさんを待たせてしまうと悪いですから、報告はセイランさんと2人になってから改めてします。」
サテラは同行していたクリム達に視線を向けつつセイランに提案した。
「そう言う事ならあなたの言う通りにしようか。えー、まず船の航海状況だけど、もうすぐヤパに着くから下船する準備をしておいた方がいいね。みんなそんなに荷物は持って無かったけど忘れものがない様にね。」
「あら、もう着くんですか。それなら私達はそろそろ魔力を抑えておきましょうか。」
「分かった。」
クリムがアクアに声を掛けるとアクアは元気に答えた。
クリムは船の護衛のために抑えていた魔力を一時解放し、周囲の警戒に当たっていた。そしてアクアもまたマナゾーを蹴り飛ばした際に魔力を解放しており、今もまだそのままの状態であったためクリムは声を掛けたのだ。人間の国に乗り込むに当たっては、彼女達が持つ本来の強大な魔力は隠しておかないと混乱を招く原因となりかねないからだ。
「では私達はクリムゾンとスフィーと合流して下船の準備をしますから、一旦ここで別れましょう。」
クリムがサテラとセイランに提案した。
「うん、そうしようか。入国に際して諸注意が有るから下船の時にまた集合って事で。」
セイランはクリムの提案を受け入れた。
「ではまた後程。」
サテラとセイランを残し、クリム達はクリムゾンとスフィーを探し始めた。
クリムゾンとスフィーはクリム達が船から出かける前と同じ場所でそれぞれのんびりしていたので、クリムはすぐに彼女達を発見し合流を果たせた。
「もうすぐ目的地に着くそうですから、船を降りる準備をしますよ。とは言え我々は特に荷物を持っていないですから、これと言って準備する事も無いですが。」
クリムは合流した2人と情報共有する意味も含めて仲間達に呼びかけた。
「荷物ならあるっすよ姉御。ほらこれ。」
シュリはスフィーが持っている2つの買い物袋を指さした。それは乗船間際に話した船員の少年から貰った、間食用に買ったパンが入った袋だった。ドラゴンは食事が必要ないため、クリムの采配により食事を必要とするシュリとスフィーに1袋ずつ預けられていたのだが、シュリはクリムを追いかけて船を出る際、手にしていたパンの袋が邪魔になると思いスフィーに預けていたのだ。
「そうでしたね。せっかく厚意でいただいたものですし、今からいただきましょうか。そろそろお昼時ですしね。」
クリムは太陽を見上げると、日の傾きから現在の時刻を把握した。
「いいっすね。さっきからなぜか腹減ってたんすよね俺。朝あれだけ食べたのに。」
シュリはお腹を摩りながら言った。
「それはたぶんマナゾーとの戦闘と、飛行するための魔法で魔力を消費したせいですね。シュリはただでさえ蓄えている魔力の量が少ない上に、食べ物を経口摂取する事でしか補給できないですからね。」
クリムはシュリの疑問に答えた。
「ああ、さっきのエビビームのせいなんすね。」
「ビームもそうですけど、あなたが意識せず使っていたアクアの高速移動技術。あれも相当魔力を消費する技ですよ。アクアマリンが独自に編み出した戦闘技術でしょうから、私も詳細は分かりませんが。」
クリムはシュリがビームの名前を勝手に変えている事は相変わらずスルーしていた。
念のため補足しておくとアクアマリンとはクリムゾンの姉である。アクアはクリムゾンの眷属だが産卵方法が特殊であったためか、アクアマリンの記憶と外見を受け継いでおりその戦闘技術も彼女に由来するのだ。
「なるほど。見よう見まねでやってみたんすけど、あれも魔力を使う技だったんすね。」
「そうだよ。海皇流戦闘術のすべての技の基礎とも言える高速移動術で、その名も・・・なんだったかな?なんかそんな感じ。」
シュリの言葉にアクアは補足説明しようと試みたが、途中で詰まってしまった。アクアがアクアマリンから継承した記憶は、幼い精神を持つアクアには難解な部分が多く、身体に染みついた戦闘技能の様に体感的に理解できる物以外はかなり曖昧なのだ。
「ほう、海皇流ですか。どこかで見た動きだと思っていましたが武芸者が操る古武術の一派にそんな感じの流派があった気がしますね。わざわざ戦闘術に名称を付けて基礎技術が有るなど、どうやら体系化されている様ですし、アクアマリンが人間に教えた技術なのかもしれないですね。アクアマリンが独自に使う技であれば体系化する必要はありませんからね。実際どういった経緯で人間と関りを持っていたのかは分かりませんが、戦闘術が技術の継承を前提としているのは間違いないでしょう。」
クリムは断片的な情報を整理した。
「わかんないけどたぶんそうだよ。」
アクア自身も詳細な事情は分からないが、クリムの仮説は雰囲気としては大体合っていると感じたので同意した。
「よくわかんないっすけど、パン食べてもいいっすか?」
シュリは話にあまり興味が無かったので食事の開始を催促した。
「ああ、そうでしたね。船が到着する前に食事は済ませておきたいですから食べ始めましょうか。」
クリムは船の進行方向に視線を送り、水平線にいよいよ大陸が見えてきたのを確認した。
「それじゃあいただきます。」
シュリは許しが出たのでさっそくパンを取り出して頬張り始めた。
「私もいただきますね。」
シュリが食べ始めたのを見てスフィーも同様に食事を始めた。
「アクアも食べますか?私は味見程度に一切れ貰えればいいですが。」
「私も味見するくらいでいいかな。」
「それなら2人で半分こしましょうか。」
「うん。」
クリムは小さなパンを1つ取り出すと2つに割って妹と分け合った。
アクアは朝食の折にもその兆候を見せていたが、さほど食事に興味が無い様子である。ドラゴンにも人間の様に個々の嗜好があり、食事を好む者もいればまったく食事をとらない者も居るので、クリムは妹の嗜好についてとやかく言うつもりはなかった。
ちなみにクリムは人間であったエコールの記憶の影響もあり、食事は好きな側のドラゴンだ。またクリムの知っている料理は6000年以上前の古い物ばかりなので、現代の料理がどの様な進化を果たしているのかにも興味を惹かれていた。
「ぼくも貰うね。」
しばらく様子を伺っていたクリムゾンだが、クリムとアクアがパンを食べたのを確認すると彼女もまた食事を始めた。
今朝の朝食で初めての食事を経験したクリムゾンは、実は食べる事に興味を持ち始めていたのだが、食事をとる必要がそもそもない自分が食事を必要とするシュリとスフィーに先んじて食べ始めるのは憚られたため少し我慢していたのである。
クリムはその様子に気付きながらあえて何も言わなかったが、他者を気遣うクリムゾンの行動から確かな精神的成長を感じるのだった。
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