第53話 戦闘評価と四大龍の役割
―――クリムゾンとクリム達が話している間、シゴクとキナリは少し離れた位置でクリムゾンとの戦闘について話し合っていた。
「シゴクちゃん油断したわね。あんな見え見えの攻撃素直に回避すればよかったのに、受け止めようとするから。」
キナリはクリムゾンの尻尾の鞭と、そこから派生したかまいたちの二段攻撃に対する対処法を簡潔に示した。しかしそれは結果が出た後だからこそできる話であり、攻撃を放ったクリムゾンすら想定外だったかまいたちの存在を、戦闘中に予見しろというのは無理な話である。
「別に油断していたわけじゃないよ。私の雷雲が真空波に弱いなんて知らなかったし、尻尾の攻撃だけなら十分受け止められると判断したから受けたわけだし。」
シゴクは反論するも自分の技の弱点を知らなかったと認めており、かえって彼女の目算の甘さを露呈していた。
「シゴクちゃんは近い実力の相手との戦闘経験が少ないから、技術が粗削りなのよね。小さい頃にもっと他のドラゴン達と遊ばせればよかったかしらね。」
「私と歳の近い子達はあんまり強くなかったし、1人の方が研究しやすいじゃん。」
シゴクは卵の時にグラニアに預けられ、そのままグラニアの守護するグランヴァニアで産まれ育った。そしてその当時まだ四大龍の任に付いていなかったキナリは同じくグランヴァニアで暮らしていたので、シゴクの事は産まれた時から知っているのだった。
シゴクは主にグラニアによって育てられたのだが、小さい頃からあまり同年代のドラゴン達とは遊ばず一頭で過ごす事が多かった。それは彼女が実母に育てられていないという特殊な境遇であるため周りの小龍達が距離を置いていた事が一つの理由だが、シゴクが産まれついて強力な力を秘めていた事から彼女自身周囲の小龍を対等に見ておらず関りを持とうとしなかったのも理由だ。実母ではなく祖母のグラニアに育てられたという共通点を持っている事もあり、キナリはそんなシゴクの事を気に掛けて見守っていたので、彼女の生い立ちをよく知っているのだ。
そして時は流れ、シゴクは成長し四大龍に選ばれるほど強力なドラゴンとなったが、今でも自身の縄張りに引きこもった状態であり他者との関りは少ないままなのだった。
「クチナシちゃんとセイランちゃんはあなたより少し年下だけど、大体同じくらいに産まれたじゃない。それにあの子達はあなたと同じくらい小さい頃から強かったわよ。」
「あの2人はいつも一緒にいたし、元気過ぎてあんまり気が合わないんだよね。」
クチナシとセイランはドラゴンとしては珍しい二卵性の双子で、いつも仲良く一緒に行動していたので、人づきあいに慣れていないシゴクにとって2人同時に相手にするのはハードルが高かった。またクチナシもセイランもアウトドア気質で、ドラゴンの住処から毎日の様に冒険に出ていたのに対し、シゴクは極度のインドア気質で住処に籠って魔法などの研究をしたかったので、彼女達の嗜好はまるで正反対だったのだ。
「まぁあの子達は四大龍として自分たちの縄張りを築いていて、それぞれの眷属もいるからあまり長く他所には行けないわよね。仕方ないわねぇ私がシゴクちゃんの修行に付き合ってあげるわ。」
「え?キナリも自分の縄張りが有るし同じ事じゃないの?」
「私はいいのよ。どうせ普段から人間達にはほとんど姿を見せていないし、眷属も居ないからね。ちょっとくらい留守にしても誰も気づかないわ。」
「引きこもっている私が言うのもなんだけど、もっと真面目に四大龍として働きなよ。私達が四大国を牽制しているからこそ世界の平和は保たれているって、いつもグラニアが言ってるし。」
「四大国の衝突を防ぐための牽制は私達がそれぞれの縄張りを持っているというだけである程度は完了しているのよ。私達の縄張りに勝手に入ればどうなるか人間達も分かっているからね。それにセイランちゃんの持っている組織アラヌイ商会だったかしら?あの子は人間の経済圏に干渉してかなりの影響力を持っているから、実質的にあの子が私達四大龍の役割を果たしている要ね。私達3人はおまけみたいなものよ。」
「そうなんだ。セイランは真面目だなぁ。」
四大龍の役割はあくまでも四大国間の衝突を防ぐための障壁となる事なのだが、セイランはそれだけでは不足だと考え独自に人間社会への干渉を強めているのだ。
「それでどうする?私と修行する?」
「うーん・・・それじゃあお願いしようかな。うちの子達相手じゃ私も本気出せないし、そもそも実力が違いすぎて訓練にならないしね。」
「オッケー♪それじゃあ帰ったら早速始めましょうか。」
「うん。よろしく。」
ひとまずシゴクとの話が済んだのでキナリはクリムゾン達が話している方に関心を向けた。
「あら?あれはサテラね。それとなんだか見覚えのある子もいるわね。ちょっと話を聞いてこようかしら。シゴクちゃんはどうする?」
「私はいいや。なんかたくさん居るし。お母さんの事はクリムゾンが1人になってから聞くよ。」
大人数が相手だと腰が引けるシゴクだった。
「なら私1人で行ってくるわね。」
「うん。行ってらっしゃい。」
こうしてキナリはクリムゾン達の元へと近づき前回の話に繋がるのだった。
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