第37話 アラヌイ商会のタニマチ・青龍会
怪物の調査を引き受けたクリムだったが、受付嬢の話に気になる点が有ったので聞いてみる事にした。
「先ほど怪物の調査について商会の上層部に相談すると言っていましたが、どういうことですか?通常であればそう言った危険な仕事は、国あるいは傭兵団に頼むものだと思いますが。」
「先ほどからお話を伺っていると、クリム様はアラヌイ商会の事をご存じないようですが、その認識でよろしいですか?」
「はい。なにぶん辺境から来たもので、恥ずかしながら俗世の事情には疎いのです。」
辺境の島からやってきたのも俗世の事情に疎いのも事実なので、嘘はついていないが謀る気満々のクリムだった。
「危急の依頼を快く受けていただいたことですし、クリム様さえよろしければ我々の商会についてお話ししましょうか?」
「そうですね。よろしくお願いします。」
「承知いたしました。それではさっそく説明いたします。アラヌイ商会は世界各国を繋ぐ運輸業、並びに商品の買い付けや生産、販売までを幅広く営む多角的な商業組織です。そして商会はどの国にも属さず中立の立場を取っているのが何よりの特徴ですね。」
「ふむふむ。」
「いずれの国家にも属さない独立した商業組合が国を相手取り商売をするのは力関係的に難しく、国家に対抗しうるパトロンの存在が不可欠です。後援会の代表者はタニマチだと言っていましたが、要するに支援者のことですね。それで商会を支援するタニマチというのが、四大龍の一角を担う賢龍姫様の率いる組織・青龍会です。アラヌイ商会は表向きは中立を謳っていますが、実質的には青龍会の傘下ですね。」
「ほう、四大龍ですか。ところでそんな裏事情を部外者の私に話して大丈夫なんですか?」
さも常識の様に出てくる固有名詞の数々を、クリムは実のところよくわからないのだが、雰囲気でわかる部分はあまり深く詮索しない事にしたのだった。当代の本物の龍の巫女は人助けの旅をしているという話だったので、あまりにも一般常識を知らないと怪しまれると思ったからである。
「はい。明文化こそされてはいませんが、商会が青龍会の支援を受けているのは誰もが知っている事実ですので問題ないですよ。我々が世界の運輸業を独占し、大国相手にも対等に商売ができ、また危険な地域にも進出できているのはすべて青龍会の支援があってこそですから。」
「なるほど。ところで青龍会というのはどういった組織なんですか?」
「青龍会は賢龍姫様の眷属や使い魔が所属する非営利組織で、この町のような国家に属さない中立地帯での問題解決や、国家間の係争を仲裁するなど、世界情勢の安定を目的としている組織ですね。」
「つまり怪物の調査は青龍会に依頼するつもりだったのですね。」
「はい。実はアラヌイ商会の貨物船各船には青龍会から用心棒が出向していまして、普段であれば彼女達に調査を依頼すればよいのですが、あいにく本日は青龍会の集会の日でして、みなさん昨日から青龍会本部に一時戻っているのです。集会は数日と掛からないので、1週間以内にはこちらに再び出向してくるはずですが、その間我々の様な海運事業部は休業状態ですね。」
「それで私に調査依頼が回ってきたわけですね。よく分かりました。」
「お役に立てたなら幸いです。他に疑問点はございませんか?」
「今のところは大丈夫です。ありがとうございます。」
「承知しました。それでは怪物調査の件よろしくお願いしますね。何かわかりましたら私の方に報告をお願いします。」
「はーい。ちょっと行ってきますね。」
クリムは交易所を後にし、怪物が現れたという海上に向かった。
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