第20話 【ヴァルキュリア放送局②】セクシーアイドル編
『みなさん、こんばんは。【ヴァルキュリア放送局】のお時間がやってまいりました。パーソナリティの兎見いずみです』
ぼくはリビングのソファに深く背をあずけ、イヤホンから聞こえてくるラジオに耳を傾ける。
【ヴァルキュリア放送局】では、毎週メンバーがゲストとして登場する。前回は小悪魔JKアイドルの鮫島芽衣さんが無双状態だったけれど、今回は大丈夫かな?
『今週のお相手は――』
『はァい。
とびきりお茶目な声が響いた。
出かける前、いずみさんの表情は普段より明るかった。
「今週のゲストは英玲奈さんだから安心ね。私もリラックスして番組に臨めそう」
英玲奈さんは『ヴァルキュリア』のリーダーで、いずみさんも厚い信頼を寄せている。
しかし、いずみさんは急にハッと思い立った。
「ううん、英玲奈さんにはいつもお世話になっているんだもの。油断しないで、今日は私が英玲奈さんの魅力をいっぱい引き出すつもりでがんばらなくちゃ」
いずみさんはきゅっと拳を小さく握り、そう意気ごんで出かけていったのだった。
さっそく、いずみさんが切り出した。
『英玲奈さんと言えば、現在発売中の写真集が大人気ですよね』
『おかげさまで20万部を突破したそうよ。ファンのみんな、愛してる!』
『お便りもたくさん届いています。ラジオネーム、しんじろ~さん。今日のゲストが英玲奈様だと聞いて、たまらずメールしました。写真集、エ……エロすぎです。セクシーの極意について教えてください、だそうです』
『いずみ。お便り読みながら、なに照れてるのよ?』
『すいません。まず口にしない単語が入っていて、ちょっとびっくりしちゃって』
『もう、褒め言葉はもっとはっきり言ってほしいわ。写真集がなんだって?』
『も、もう一回言うんですか?』
『もう一回聞きたいなー』
『……エロすぎ』
『ぱしゃっ! いただきましたーっ!』
『きゃっ! 英玲奈さん、なに撮っているんですか!』
『だって、白い頬を赤く染めて恥じらういずみがかわいすぎるんだもの。後でSNSにアップしまーす!』
『ダメ~っ!』
たちまち、いずみさんがうろたえ出す。ラジオで聞いていても、いずみさんの慌てぶりが目に浮かぶようだ。
『そ、それよりセクシーの極意についてですが、英玲奈さんってほんとうにスタイル抜群ですよね』
『いずみ、どこ見ながら言ってんの?』
『だって……英玲奈さんが正面に座っていらっしゃると、立派なお山とみごとな谷間がつい視界に入ってしまって』
『つまり、いずみはどこを見てるわけ? はっきり言ってくれないと、英玲奈、分かんなーい』
『だから、英玲奈さんのおっぱ……、英玲奈さん、さっきから私に変なことばかり言わせようとしてません?』
『いやー、清楚な子にいやらしいこと言わせるのって、セクシーの極意じゃない?』
『それはセクハラですっ』
英玲奈さんが軽やかに笑いだす。たいして罪も感じていないようだ。
これでは英玲奈さんの魅力を引き出すどころか、逆にいずみさんの新たな魅力が開花しそうだ。
『そう言ういずみもスタイルいいわよね。足も長くてきれいだし、お尻もつんと上を向いてかわいいし、バストもきれいだし』
『いつ見たんですかっ!?』
『メンバーの間じゃ評判よ。いずみは美乳だって』
『えっと、うちのメンバーは、私の知らないところでなんの話をしているんでしょうね?』
『いずみだって近々写真集の話が来るんじゃない? この間、プロデューサーが話していたわよ』
『ほんとうですか? 嬉しいですね。私にもようやく写真集のお話が』
『プロデューサー、いずみにきわどい水着を着せていっぱい
『たいへん、早く止めなくちゃ!』
『
『もっと止めなくちゃ!!』
ぼくはラジオを聞いていて恥ずかしくなってきた。いずみさんのスク水姿なんて、想像するだけでも破壊力がありすぎる。
CMを挟み、番組は後半へ。
『後半も引き続き、鷲尾英玲奈さんにセクシーの極意についてうかがっていきます。英玲奈さんは、スタイルを維持するために普段心がけていることはありますか?』
『そうね、アンチエイジングに効果的な食事に気を配ったり、エステに通ったり。あと、日々のエクササイズも欠かさないわ』
『食事やエクササイズの様子は、SNSでもたびたび紹介されていますよね』
『当然よ。せっかく努力しているんだもの、みんなに見てもらわないとね。それに、私の美ボディの作り方がいつか本になるかもしれないし』
『英玲奈さんって、そういうところ、ほんとうにしたたかですよね。でも、計算していてもぜんぜん嫌味じゃないのがすごいです』
『全部さらけ出しているからじゃない? 変に隠すとかえって嫌味だもの。私こんなに頑張ってます! だからスタイルを維持できてます! ってオープンにしたほうが、清々しいでしょ』
『たしかに、英玲奈さんには清々しさを感じます』
『だから、セクシーの極意はずばり、ありのままをさらけ出すことよ!』
『ありのままをさらけ出す……。私にはできそうにないなぁ。周囲の目が気になっちゃって』
たしかに、いずみさんは努力を人に見せたがらない。その点は、なんでもオープンにする英玲奈さんとは対照的だ。
いずみさんが恥ずかしそうに打ち明けると、英玲奈さんが後輩に教えさとした。
『私もアイドルになりたての頃は、周囲の人の目を常に気にしてたわ。ほら、アイドルって人気商売だから』
『分かります』
『でもね。私、ある時から周囲の目を気にするのをやめたの。私の人生の主導権を握るのは周りの人たちじゃない。主導権はいつだって私が握っているんだ。だから、周りに求められる通りに演じる必要はないんだって』
『人生の主導権は私が握っている――さすがリーダーですね。かっこいいです』
『でしょう~』
いずみさんが感激すると、英玲奈さんは明るい笑い声を響かせた。
『じゃあ、いずみも将来の写真集に備えてセクシーポーズをやってみましょうか』
『ええっ、今ですかっ!?』
『そうよ。私たち
『うぅ……そう言われると断れませんね。すごく恥ずかしいですけど、勇気を出してがんばります』
『オーケー! それでは、まず長い髪を両手でしばって、うなじを見せてみましょうか』
『分かりました』
『いいわね~。そのまま髪を結った状態で、身体を横に向けて脇を広げて、背中を張ってバストを美しく見せる意識で』
『あぅ……恥ずかしぃ……』
『素敵よ~。さらに顔をこちらに向けて、ちょっと拗ねた感じで「もう、エッチ」って言ってみて』
『もう……エッチ……』
『ぱしゃっ! いただきましたーっ!』
『きゃあ~っ! 英玲奈さん、撮らないで~っ!』
『いずみのセクシーポーズ、すっごくかわいかったわよ! これもSNSにアップしまーす!』
『やめて~っ!』
『ダーメ。言ったでしょう、主導権はいつだって私が握っているってね』
『もうっ、英玲奈さ~んっ!』
番組終了後、英玲奈さんのSNSにいずみさんのセクシーポーズがアップされた。
ワンピースでもこの破壊力。これがスクール水着だったら……って、ぼくはなにを考えているんだろう?
その後、英玲奈さんのSNSのフォロワー数がさらに伸びたのは言うまでもない。
( 次回:「初めてをキミに捧ぐ」)
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