吉屋信子の戦前長編小説について(6)昭和5年から支那事変までの作品(4)~男の償い
期間内の「主婦之友」の中での作品のラスト。
いやもう、何というか、この小説は「男の選び方をひとつ間違えるとあとはもう転がり落ちるように不幸になっていくばかりで結局誰も幸せになれない」ばなしでございます。
まず人間関係。
https://plaza.rakuten.co.jp/edogawab/diary/201806050005/
で。今回は家系も何ですが、性格!
ヒロインは寿(実際は旧字)美さん(元々は旅館のお嬢さん。だけど途中からけなげ……)と瑠璃子さん(インテリお嬢さん)。最後のほうにしかこの女性二人は接点は無いんだけど、共通しているのは、誰かが原因で不幸になってしまったということ。
というか、滋という男に惚れてしまったことで二人とも不幸になってしまったというか。
この滋がまあ…… 読んでいると本投げつけたくなるような嫌な男でございます(主観)。
学はありますが、人の心が判らない系。考古学者志望でそれに夢中+プライドが高い。
なのだけど、出張で来た旅館で、一緒にピンポンをしたことで寿美さんが恋してしまう。これに適当にいい顔したのがあかんかった。この時点で瑠璃子さんと喧嘩していたというタイミングの悪さも。
だから最初に寿美さんと結婚したのは、ほとんど瑠璃子さん宅へのあてつけ。
それでいて婿入り先で馴染まない。
というか、何処か旅館のほうを見下してる印象がある。自分が売られた、と感じてるせいもあるかもしれない。
一方でこの旅館の義父義母も「それでも普通は手伝ったり気遣ったりするでしょ」という思い込みもあってか、全く馴染まなかったり、盆栽に興味ないと言い放つ空気の読めなさに苛立つ。んでもって、娘がこの婿のことになると親の言うことを聞かないようにもなる感なのが……
まあそんなこんなで金の関係もあって離婚という話になるんだけど。これまた滋はあっさり。
実家に戻ってから瑠璃子さんに気を見せたりもする。
つまり寿美さんという女性個人には殆ど関心がなかったということだよな!
なのに離婚後に子供できてたことが判るってのは……(ため息)
滋と対照的に配置されたのが、「もの凄くいいひとだけど自分を低く見すぎる」喜之助。
彼は彼で、あまりに寿美さんを愛してるから一生懸命働いて、いい父親になって、ようやく自分自身の子供もできるんだけど。
だけど滋のせいでできた負債+ショックもあって亡くなった父親+早まった新築→放火……
ここで目をやられてしまった喜之助はもう、自分がお荷物だという思いにかられていてな。しかも「それでもまだ寿美さんは滋さんを愛してるんだ」と言う思い込みがありまして。
いや実際、寿美さんの中にそういうのはあったかもしれないんだよな。「今から心からの本当の妻だ」という宣言しなくちゃならない、という辺りに何か頭でそう思い込もうとする感が強すぎるのよ。
で、自分がいなければ……と入水したら、長男(滋の子)も追って行くうちに足を滑らせ……
まあそら、寿美さんの張り詰めた糸も切れるというものですな。
ちなみに狂ってしまった彼女が閉鎖病棟でする行動は、「新婚旅行で見た、滋の友人の妻の行動を見て真似ていた『化石や鏃の整理』」だったりするんだよな。そのへんにある石ころ集めて、箱に整理して。
つまり彼女にとって一番きらきらしていた時代。
なのに、記憶は滋だけが存在しない。彼女の夫は喜之助で、子供も彼の子。
この様子を見て、ようやく滋は自分のしてしまったことの罪深さを知る、ということなんだわな。
で、償いとして彼女と結婚して、残された喜之助の子を育てていくことにすると。この時点では彼の母親も亡く、気楽な独身研究者だったところだったけどさすがにな。
それにしてもこの話の不幸の転がり方は凄かったわ。まじ。
吉屋信子の話ってのは、首ひねるとこはあるんですよ。たくさん。だけどそれでも、だかだかだかだか読んでしまえる勢いがあるわけ。
無論このキャラクター達、皆本当に思ったことを口にしねえ! コミュニケーションが足りねえ! と言ってしまえば終わりなんだけど、それでも「そういう人」という設定になっていれば仕方ない。
ちなみにこの作品、戦後の昼のテレビドラマにもなりましたざんす。
*
ついでにこの作品単品について書いたものを次に。
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