第44話 とある魔王の貴重品を預かった魔族の苦悩
広い部屋に隙間なく並べられた宝箱。
それを眺めながら、長身の魔族が首を捻る。
「同士よ。この宝箱は何だ?」
長身の魔族にそう尋ねられ、
小太りの魔族は「うむ」と頷く。
「実はつい先程に、魔王様より重大な任務を遣ったのだ
何でも魔王城を模様替えすると言うのでな、
決して無くさぬよう貴重品を預かったのだ」
「ほうほう。して、その貴重品とは何ぞや?」
「それが木箱に隠されて俺も確認はしていない。
だが何でも、勇者の手に渡れば魔王様とて敗北しかねん
重大な道具だという」
「魔王様を? ぬ……いわゆる、闇の衣を剥がす
光の玉という奴か?」
「そんなものがあるのか? だとしたら、
そうなのかも知れん」
「そんな危険なもの、早急に破壊すれば良かろう」
「だが大切に保管せよとの命令だ。何か事情があるのだろう」
「むう……それで、結局この宝箱は何だ?」
「つまりだ、その貴重な道具を預かったはいいが、
これを狙い勇者が来るやも知れん。その対策として
このようにダミーの宝箱を多く用意したわけだ」
「なるほど。この宝箱の一つに、その貴重品が
入っているわけだな。だが全ての宝箱を開けられては
意味がないのではないか?」
「抜かりない。ダミーの宝箱には罠が仕掛けられている。
不用意に宝箱を開ければ、勇者の命はない」
「ほう。さすがだな同士よ。これで貴重品も安全だ」
「その通りだ。して、お前は何の用で来た?」
「魔王様より同士に手紙を授かった。これだ」
「確かに受け取った。ふむ……ほうほう」
「何と書かれている?」
「何でも模様替えが済んだ故、貴重品を持ってこい
とのことだ。思ったより早かったな」
「なるほど。残念だがこの宝箱は無駄になったな。
ではさっそく、その貴重品を魔王城に運ぼうではないか」
「……貴重品の入れた宝箱はどこだ?」
この小太りの魔族の言葉に、
長身の魔族は沈黙した。
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小太りの魔族が一つの宝箱を開ける。
その直後――宝箱が大爆発を起こした。
黒焦げになった小太りの魔族に、
長身の魔族が尋ねる。
「無事か?」
「無事だ。右腕は吹き飛んだが大事ない」
「一大事だと思うが?」
「いずれ生える」
「生えるのか?」
「まさか……生えんのか?」
驚愕する小太りの魔族に、
長身の魔族が「ふむ」と思案顔をする。
「腕が生えるという話は聞いたことがない。
以後気を付けると良い」
「承知した。だがこの宝箱に貴重品はないようだ。
次の宝箱を開けてみよう。えい、パカ」
無警戒に宝箱を開けた小太りの魔族。
その胴体に、宝箱から突き出した槍が突き刺さる。
「ぬ。無事か?」
「無事だ。だが危ういところではあった」
「今まさに危うい状況だと思うが」
「馬鹿な。槍が心臓を貫いただけで、
怪我をしたわけではない」
「なるほど。気の持ちようということだな」
「何にせよ、ここにも貴重品はなかった。
早く貴重品を探さねば魔王様に殺されかねん」
「右腕を無くし、心臓を貫かれている魔族を
魔王様もさらに殺そうとするだろうか?」
「魔王様を甘く見るな。恐ろしいお方だ。
では次の宝箱を開けよう。えい、パカ」
宝箱から一人の戦士が出てきて、
小太りの魔族を剣で斬りつけた。
役目を終えたとその場を去っていく戦士。
体を袈裟切りされた小太りの魔族が、
淡々とした調子で呟く。
「これも違った。ぬう、なかなか見つからんものだ」
「そうだな。ところで今の人間は何だ?」
「うむ。バイトで雇った。罠のバリエーションに困ったのでな」
「なるほど。というか、あいつはもし勇者が開けていたら
今のように斬るつもりだったのか」
「仕事熱心な若者だ。ゆとり世代などと馬鹿にしてはいかんな。
それでは次の宝箱を開けよう。えい、パカ」
宝箱から美しい女性が現れ、
小太りの魔族を平手打ちした。
小太りの魔族の首が180度回転する。
首の捻れた魔族に、女性がわっと涙を流す。
「ひどい! 私のことは遊びだったのね!
もう貴方なんて知らない!」
パタパタとその場を去っていく女性。
首を捻れさせたまま、小太りの魔族がうむと頷く。
「これも違った。どうやら俺は運がないらしい。
このままでは魔王様に殺されてしまう」
「お前を殺すことに、魔王様もさぞかし
頭を悩ませることだろう。それはそれとして、
さきほどの女は何者だ?」
「うむ。肉体だけでなく、精神的にもダメージを
与えようと思ってな、愛人風の女を用意してみた」
「なるほど。だが結局、
肉体的ダメージになっていると思えるが」
「心が痛い」
「同士よ。お前は心清い魔族だ」
「だがこれで最後の宝箱だ。えい、パカ。
おお、ようやく見つかったぞ。む?」
「どうした、同士よ?」
「貴重品を見つけたのだが、
木箱の蓋がズレて中身が出ている。
どうやら一冊の本のようだ」
「本?」
「タイトルが書いてある。
なになに……『魔王ポエム集』?」
沈黙が場を支配した。
しばらく硬直していた小太りの魔族が
長身の魔族にポツリと言う。
「同士よ。俺はこれからこの本を持ち、
魔王様に会いに行ってくる」
「……そうか」
「……無事を祈ってくれるか?」
小太りの魔族の言葉に、
長身の魔族は力強く頷く。
「無論だ。俺たちは同士だろ」
これまで全ての宝箱を耐えてきた魔族だ。
この最後の宝箱が招く災いもまた――
きっと耐え抜くはずだ。
長身の魔族はそう信じて、
小太りの魔族の背中を見送った。
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