第21話 とある転職の神殿にいる老齢の神官
魔族が一冊の本を掲げ、哄笑した。
「ふはははは! ついに手に入れたぞ!
『悟られの書』これさえあれば、俺は賢者になれる!
さすれば勇者を必ず倒せるはずだ!」
魔族は人間に変化し、
意気揚々と転職の神殿へと向かった。
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「……神官様。本当に大丈夫ですか?」
青年の言葉に、老齢の神官が訊き返す。
「……はあ?」
「ですから、本当に大丈夫ですか!?」
「本当に体調ブリブリですか?」
「違います! 本当に大丈夫ですかって言ってるんです!」
老齢の神官が「ああ」とコクコク頷く。
「心配いらん。ちゃんと食べてきたよ。
お茶漬けは最高だのう」
「まったく、耳が遠いうえにボケまで入って……
こんなんで転職の仕事ができるんですかね?」
とはいえ、老齢の神官以外に、
転職を決定できるものはいない。
その時、一人の男性が神殿に現れる。
若者は心配ではあったが、老齢の神官に
「ホントお願いしますよ」と言い残し
自身の仕事へと戻った。
老齢の神官の前に、
ガタイのいい男が立つ。
男は一冊の本を掲げ
声高に叫んだ。
「ここに『悟られの書』がある!
さあ俺を最強の賢者としろ!」
「……」
老齢神官から応答がない。
男は暫し呆然とした後、再び声を上げた。
「俺を最強の賢者にしろ!」
「……はあ?」
「……いやだからな」
男は困ったようにこめかみを掻き、
一語一句丁寧に言葉を話した。
「最強の賢者にしろ!」
「……あーあ、はいはい」
老齢神官がポンと手を打つ。
そして――さらりとこう言った。
「最強の患者な」
「そうそう、めっちゃ強い患者になって
ばったばったと医者を殴り飛ばしてな、
だけど医者を倒しちゃったから自分の
病気が治せなくて――」
「最強のもんじゃな」
「あっつ! 何このもんじゃ!
めっちゃあっつ! つよ!
この熱さは絶対に強いって!」
「再考のもんじゃな」
「うんうん、どうした、もんじゃ?
え? 俺ってゲロみたい?
いやそんなことないって。
そんなこと再考する必要ないって」
「高校のもんじゃな」
「ええ? あのもんじゃ、もう高校生なの?
いや時がたつのは早いな。
つい最近までこんなだったのに、
もう高校生なんだ」
「どこ高校の者じゃ」
「テメエよ。あ? どこ高校の者じゃ?
俺? 俺は山中高じゃよ!
テメエは、どこ高校の者じゃ!?」
「ド〇モのモモンガ」
「ええ! ドコ〇のCMに
モモンガが出るの?
めっずらし! めっずらし!」
「どこでもモモヒキ」
「いや、あったかいのは分かるよ?
でも結婚式にモモヒキはないって。
しかも新婦が? いや
スカートからモモヒキ見えちゃってるから!」
「どこま――」
「いや関係ないよ!
最強の賢者に俺はなりたいの!」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
老齢神官と男が沈黙する。
男が何やら考え込むように
腕を組み――
ポンと手を打った。
「最強の賢者は止める」
「ん?」
「じいさん! 俺を最強の芸人してくれ!」
男の宣言に
老齢の神官がさらりと言う。
「ああ……はいはい、最強の芸者な」
「おいでやす。わっちが――」
老人神官と男やりとは
その後も何時間と続けられた。
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