第二海浜倉庫より

wazzwallasis

1.

 午前に一回、午後に一回、貨物が配送されてくる。


 夏の日差しのまぶしさに目を細めながら、僕はゲートのそばに立ち、コンテナの列がこちらに向かってしずしずと進んでくるのを見る。大きさはバスくらい。四隅に付けられた小さなタイヤを滑らかに回転させながら、数メートルほどの間隔をあけて前のコンテナの後に大人しく続く。今朝は24台だった。珍しい数じゃない。


 僕は彼らの従順な姿を見るのが好きで、時間を見計らってはここに立つ。


 先頭のコンテナはどんな心境なんだろう。僕は空想する。自由意志を他のみんなに託されているのだから責任重大だ。とはいえ彼にためらいは全然見えない。今日も迷いなくゲートのエントランスに入ってきた。他のコンテナも彼を信頼して後に続いた。


 見上げるような大きさの彼らがすぐそばを通って倉庫に入っていくのを僕はただ眺めた。こう見ると彼らは全然バスじゃない。四面にアースグリーンの錆止めを塗られた、頑鈍な鋼鉄の箱の行列。


 もちろん中には誰も乗っていなくて、彼らは彼らの意思のみでこの仕事をしている。意思ある台車はコンテナをここに運び、別のコンテナを積まれて出ていく。牧羊犬程度の知能の彼らにそれ以上の喜びはない。だからそれ以上の苦しみを知らずに過ごせる。


 コンテナの外装には太陽エネルギーがじりじりと蓄えられていて、それが倉庫の室温を上げた。並ぶそれらの天板から陽炎が立つようだ。僕は壁際に移動すると操作盤のキーをいじった。すると高い屋根にある天窓がキュルキュルと軋みながら開いていった。熱気がそこから外に逃げ始めると、代わりにゲートからぬるい風が入ってきた。直射日光に晒されたアスファルトの埃っぽい匂いはみるみる倉庫に満ちた。


 24台のコンテナはそれぞれ、僕の知らない指令の通りに所定の配置についたようだ。息を合わせたかのようにぴたりと静止する。すると倉庫の内壁に沿うように設置された足高のガントリークレーンが動き始め、コンテナの一つ一つを倉庫内の空いた場所に移し始めた。


 無論、クレーンも自分の意思でどこかから依頼された仕事をしている。邪魔にならないところに引っ込んで、僕は彼らの洗練された盲従な仕事ぶりを飽きずに眺める。


無人、無人。今、世界のどこを見回しても人間なんていやしない。人間はもはや貨物を運んだり積み上げたりみたいな単純仕事なんてしない。暑いさなかに外を出歩くような馬鹿な真似もしない。多分彼らはどこか涼しくて居心地のいい場所に引っ込んで、いい香りのする飲み物を手に、コロコロと井戸水が湧くような話し方で知的なビジネスをしているんだろう。


 僕はそれで構わない。現実感のない世界の話は、僕に対して何も力を持たない。僕は自分の毎日を満足している。


・・・


 危険な重量のコンテナが見上げる高さまで釣り上げられ、ゆっくりと移動していく光景は壮観だ。あんまり夢中になっていたから気がつくのが遅れた。よく見ると台車一台分のスペースが空いている。あれ? 確かに彼らは仲良く並んで到着していたんだがな。見ればゲートに入ってすぐのところで、所在なげに佇んでいる台車がいる。奥ゆかしい彼らは声を上げることもできず、ただもじもじして、誰かが気づいてくれるのを待っている。


 誰か。それはもちろん僕だ。


 僕は苦笑してゲートに向かう。すると、気がついた台車はパッと表情を明るくしたように見えるから不思議だ。そうして、早く自分のところに来てほしいというように、微かに身を震わせている。


「ちょっと待って。行くから」


———


 人工知能の機械は定められた仕事を従順にこなす。けれども時に世界では予想外で突拍子もないことが起きる。風で小鳥の巣がコンテナの上に落ちる。親鳥が鳴きながら周りをぐるぐるいつまでも飛び続ける。台車の隅に落ちた種から芽生えたつる草が、輸送中のコンテナを元気にデコレーションしてしまう。なぜか機嫌を損ねた野良猫が進路からどうしても退かない。そんなを前にすると、機械は先の見えない未来におびえ、立ちすくんでしまう。


 僕の倉庫での仕事がこれだ。僕は怯えたコンテナのところまで行くと、小鳥の巣を近所の木の枝に戻す。つる草は丁寧に剥がして、日当たりのいい電波塔のフェンスに這わせてやる。猫は首のあたりをつかんで進路からどかせると、そのまま倉庫の隅までぶら下げていって、ミルクを飲ませて懐柔する。こんな仕事は思ったよりも多くて、ゆらぐ世界で懸命に暮らす機械たちの苦労を僕は思う。


 時には台車のホイールボックスに入り込んだ枯れ枝を除いたり、シュロのホーキで埃をざっと払ってやることもある。彼らはブルっと身を揺すると、気持ちよさそうに僕を見上げる(そんな気がする)。牧羊犬の群れの世話。彼らが気持ちよく過ごせるように配慮すること。それが僕の仕事。あとは倉庫のケアと巡回。


 週に一度、生活に必要なものと食料を、やっぱり機械から受け取る。コンテナよりも小柄な輸送機械は、尻尾を振って僕のところまで来て、僕に撫でられてご機嫌に帰っていく。


 夜。僕は倉庫の一室で、缶ビールをプシュッと開けて、彼らのことを考える。


 僕は僕の空想で着色された世界を楽しく生きている。


———


 ゲートのコンテナのところまで行った。不安そうな台車に声をかけると、ぐるりを回って異常の元を確かめる。


 後ろに回って、ようやく分かった。コンテナの上から、裸足の足が二つ、ぶらんと見えている。


 人間だ。僕はブルリと震えた。


(2に続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る