妹がヒロイン候補?

「お兄さんと水着で一緒にご飯を食べるのは初めてですね」


 昼食の時間になり、良平たちは海の家でご飯を食べている。

 午前中に海で遊んだ後は、このまま海にいるか石垣島の観光地を訪れるか班事で決めることになっており、良平たちは海にいることにした。

 最初はサラの体調を考えて他のとこに行こうとしたが、本人が海にいたいというのと、明日の午前中にお土産を買う時間があるから海になったのだ。


「そうだな。何故か俺まで怒られたけど」


 沖縄名物ゴーヤチャンプルーを食べながら良平は不満を呟く。

 サンオイルを塗った後に桃花と詩織は先生に見つかり、何故か良平まで巻き込まれて怒られた。

 桃花たちが勝手に来ただけで良平は来てほしいなどと言っていないため、怒られたことに不満だ。


「あはは、ごめんね」


 苦笑いをしている詩織に謝られた。

 一応来たことに関しては反省しているようだが、後悔はしていないらしい。

 桃花が一緒にいれないことに泣いちゃったから、それを理由に内心密かに寂しいと思っていた詩織が便乗したのだろう。

 あくまで詩織の言動などを見た限りで想像なのだが、恐らく間違っていない。

 他人に無頓着の良平といえど、長年一緒に住んでいる詩織についてはある程度分かるし、最近は甘えられるから尚更だ。


「石垣島のご飯美味しいわ」


 ミミガーが入っているゴーヤチャンプルーを食べている夢乃はとても幸せそうだ。

 桃花と詩織が来てしまったことにはクラス委員なのに無頓着らしく、恐らくは面倒だからだんまりを決め込んでいるのだろう。

 普段の学校にいる時であれば別かもしれないが、せっかくの修学旅行だから楽しみたいのが本音のようだ。


「何であんなに食べても太らないの? 羨ましい」


 夢乃の大食いぷりを見ながら、恵里菜は自分のお腹を摘みながら呟く。

 恵里菜も充分にスタイルは良いのだが、今の体型では満足していないのかもしれない。

 修学旅行で好きな人である良平に水着を見られるため、食事制限でもしていたのだろう。


「そういえばアニメに出てくるヒロインって皆細いよな」


 一般的には太った人より細い人が好きな人が多いため、アニメのヒロインは大抵細い。


「それは私までヒロインに入っているということかしら? とても不満だわ」


 良平の言葉に夢乃が不満そうな顔をする。

 今の状況……つまりは男一人に複数の女子がいるという、現実では中々有り得ない状況にいる良平はまさにラブコメアニメの主人公のようだ。

 けれど夢乃にはその状況がとても不満なようで、あくまで班が一緒だから同じテーブルで食べているだけ、と思っているのかもしれない。

 班が一緒じゃなければ関わりたいとは思っていないだろう。

 他のテーブルで食べている男子が羨ましそうに良平を見ているのは気にしないでおく。


「お兄さんのヒロインは私だけです」


 むう、と頬を膨らませた桃花に抱きつかれた良平は、もちろんそんなつもりで言ったわけではない。

 そんなことは桃花も分かっているだろうが、心情的には嬉しくはないだろう。

 学校イベントの修学旅行、他の女子に興味を示さないといえど、彼氏である良平が他の女子と一緒にいるのだから。

 多少であっても嫉妬するのは当たり前だ。


「私はお兄ちゃんの妹だからヒロインかな?」

「アニメやラノベでは実妹はヒロインになってなくないか?」


 実妹が出てくるアニメはあるが、ヒロイン的なポジションでなく、どちらかというと主人公を支える役、相談にのってくれる役と言っていい。

 ヒロインになるのは結婚しても問題ない義妹だ。


「お兄ちゃんに友達が出来るのは嬉しいけど、甘えられなくなるのは嫌、かな」


 上目遣いになった詩織は向かいに座っている良平の手に自分の手を重ね合わせ、今すぐにでも甘えたいかのようなアピールをしてくる。

 やはり会えない寂しさで桃花が泣いたのを言い訳にして沖縄に来たようだ。


「私には兄弟がいないけど、普通は兄妹でイチャイチャしないんじゃないの?」


 恐らく食事制限をしているであろう恵里菜は冷たいソーメンを食べ、良平と詩織を交互に見る。


「先輩はお兄ちゃんが普通だと思ってるんですか?」

「いや、全く思ってないかな」


 詩織の質問に首を横に振りながら恵里菜は答えた。

 全く持ってその通りであるが、即答されたのは複雑な気分になる。


「とにかく私はお兄ちゃんに甘えたいの」

「うう〜、やっぱり詩織ちゃんは重度のブラコンだよ」


 指を絡めて手を繋いでくる詩織を見て、桃花は嫉妬したかのような声を出した。

 確かに実の兄妹で恋人繋ぎなんてしないだろうし、詩織は重度のブラコンだと言ってもいいなもしれない。

 人前だというのに手を繋いできたのは、一日会えない寂しさがあって暴走しているからだろう。


「お兄さんのヒロインは私だけ。それは詩織ちゃんであっても譲れないの」


 ぎゅー、と独占するかのように胸を押し付けて抱きつく桃花だった。

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