修学旅行前日パート2

「はあ~……」


 彼女──三司恵里菜は自室のベッド上で盛大なため息をついた。

 もうお風呂から上がりそう寝間着姿で、後は明日の修学旅行ために寝るだけだ。

 でも、恵里菜はある人のことが頭から離れない。


「良平くん……」


 恵里菜の頭から離れないのは佐藤良平だ。

 仲良くしたいと思っていても、良平は恵里菜と仲良くしようとしてくれない。

 話しかければ応答はするが、ただそれだけ。

 彼女がいるからなのか、本当に良平は恵里菜に興味を示さない。

 そもそも夏休みが終わるまで恵里菜の名前すら良平は知らなかった。

 コミュニケーション能力に長けている恵里菜にはそれがショックで、良平に自分のことをきちんと覚えてもらうために毎日話しかけている。

 結果だけで言えば成功したと言えるだろう。

 流石の良平も恵里菜の名前は覚えたのだから。

 ただ、毎日話している内に恵里菜にはある想いが出てきてしまった。


「あんな人、初めてだよ……」


 良平のことをもっと知りたいという気持ち。

 今まではあざと可愛く接してきたために、恵里菜に惚れる男子は多かった。

 惚れなくてもあたふたしたりと何かしらのリアクションを必ずとっていたのだ。

 なのに良平は恵里菜がどんなに接していても何もない。

 ただ、機械のように反応するだけ。

 それが逆に良平へと興味を持つきっかけになってしまったのだ。

 この気持ちが恋かはまだわからないが、明日からの修学旅行でハッキリとするだろう。

 学年が違う桃花は参加することが出来ないので、良平の側に彼女はいない。

 いっぱい話しかけてこの気持ちをハッキリとさせたいのだ。


「もし、好きだったらどうしよ……」


 良平には現在進行形で彼女がおり、しかも最強のバカップルと言っても過言ではないだろう。

 一切他のことに興味を示さないし、何と言っても手錠で繋いで登校してきた。

 普通なら考えられないことだ。

 でも、ずっと繋がっていたいくらいに愛し合っているということで、他の人が入り込む余地なんて残されていない。

 好きになっていたとしたら恵里菜にとって茨の道になる。

 桃花のことしか見ていない良平を口説き落とせる可能性はゼロに等しいのだから。

 だから恵里菜はため息が止まらない。

 ここ最近は良平のことを考えてしまい、眠る時間が遅くなることもある。

 もっと仲良くしたい……出来ることなら二人きりで遊びに行きたいという想いが出てきてしまう。

 でも、誘ったとしても断られることは目に見えている。

 なのでこの修学旅行が恵里菜にとって最後のチャンスだ。

 沖縄で仲良く出来なければ、この先良平と付き合うことなんて絶対に出来ない。

 いっぱい話しかけて少しでも興味を持ってくれればまだ機会はある。

 ただ、それは並大抵のことではいかない。

 学校一の美少女である桃花より魅力的だと思わせないといけないのだから。

 失敗したら諦めるしかないだろう。


「色々と考えてもしょうがないし、もう寝よ」


 せっかくの修学旅行なので、眠いまま行きたくはない。

 それに寝坊して行けなくしまったら、仲良くすることも出来なくなってしまう。

 だから恵里菜は良平のことを考えないようにして寝るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る