妹は甘えてみる

「早く生理終われ早く生理終われ早く生理終われ……」

「桃花は何呟いてるの?」


 晩ご飯の時間になりリビングに来た桃花は、先ほどから呪文を唱えるようにこの言葉を呟いていた。

 まだ二日目だから終わるのには少し時間がかかるが、早く終わってほしいのだろう。


「だって生理終わればお兄さんに抱いてもらえるんだよ? 終わってほしいじゃん」

「気合いで終わったら苦労しないよ……」


 どうやら詩織も生理はしんどいようで、その辛さは女性だけにしかわからない。


「そういえば最近桃花は料理作らないな」


 桃花がリビングにいるということは、手錠で繋がれている良平ももちろんいる。


「それはお兄ちゃんが桃花を手錠で繋いでるからでしょ」


 最初は桃花も作っていたが、良平のせいで今は作っていない。

 手錠で繋がれていたら作ろうにも作れないのだ。

 そのせいで毎日詩織が三人分のご飯を作る羽目になっている。


「あはは。お兄さんが作ってほしいなら作りますよ」

「うーん……食べたいけど、作る時は手錠を外さないといけないからな」


 「本当に悩ましい……」と呟いてから、良平は考え出す。

 桃花の料理は食べたいが、今の良平は少しも彼女から離れたくない。

 詩織の料理も美味しいので、そのままでいるのが吉だろうか?


「お兄ちゃんは本当に変態だよね」

「褒めるな」

「褒めてないから。てか褒められてるって思うなら嬉しそうにしたら?」


 感情が出るようになってきているとはいえ、良平の表情はやっぱりぎこちなく、嬉しそうには見えない。


「俺にそれを求めるな」

「そうだね。お兄ちゃんは桃花に噛みついてチューチュー出来れば満足だもんね」


 特殊性癖としか思えない行動に詩織は毎日引きまくりで、ため息ばっかりついている。

 二人が兄と親友じゃなかったら、詩織は話すことすらしないだろう。


「詩織も噛みついてほしいのか?」

「いや、そんなことは絶対にないから」


 これ以上ないくらい冷たい視線を良平に向ける詩織。


「いくら詩織ちゃんでもお兄さんはダメだからね」

「大丈夫だから。二人は本当に変……」


 兄に噛みつかれたいとか絶対にないし、彼氏が出来たとしても噛んでほしいなんて詩織は絶対に言わないだろう。

 先日、ブラコンと桃花に言われて否定しなかった詩織であるが、それでも噛みつかれたいなんて思うことなんてない。


「詩織ちゃんはブラコンだから一番のライバル……絶対に噛まれようと思っちゃダメだからね」

「あはは、寝言は寝て言え」


 笑顔でそんなことを言い放つ詩織だが、どう考えても怒っている。


「百歩譲ってブラコンというのは認めてもいいけど、桃花みたいにはならないよ」

「詩織っとブラコンなのか?」


 今までそんなことに気づかなかった良平は、詩織の真実に驚く。

 確かに兄妹にしては仲が良い方だが、良平は詩織がブラコンなんて全く持って思っていなかった。


「そうだね。でも、勘違いしないでほしいのは、お兄ちゃんと付き合いたいとかはないから」


 「でも、少し嫉妬しちゃうかも……」と詩織は頬を少し赤くしながら呟く。

 感謝していると良平は以前言ってくれたが、それ以降はずっと桃花に構いっぱなしだ。

 嫉妬してしてしまってもしょうがないだろう。


「たまには少し甘えてみようかな」

「え?……」


 詩織は良平に近寄ってからそのまま抱きついた。

 先日大泣きした時以来の兄の感触……詩織はそれをたっぷりと味わっていく。


「詩織ちゃん? 甘えすぎはダメだよ? お兄さんは私の彼氏なんだからから


 桃花の言葉を無視して、さらに良平に抱きつく力を強くする詩織。


「お兄ちゃん、これが桃花以外の女の子の感触だよ?」

「お、おう……」


 今まで詩織に抱きつかれたことなんてなかったため、良平は戸惑ってしまう。

 桃花ほどではないにしろ形の良い二つの果実は完全に良平の身体に押し付けられている。


「百歩譲ってじゃなじゃん。詩織ちゃんは重度のブラコンだよ」

「じゃあ、それでいいよー」


 前に良平が感謝していると言わなかったら、詩織はこうならなかっただろう。

 でも、こんな姿を見てしまっては、最早ブラコンにしか見えない。


「お兄ちゃん成分を吸収出来たからご飯を食べようかな。また抱きつかせてね」

「詩織ちゃんがお兄さんに抱きついていいのはたまにだからね」

「あはは、はーい」


 詩織は嬉しそうに返事をし、テーブルにご飯を並べていくのだった。

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