約束

「んん……」


 朝になり良平は起きた。

 そして良平は隣で寝ている桃花をキスして起こそうとするが……。


「桃花?」

「お兄……さん」


 桃花は顔がいつもより白くなっていて息が荒く、とても体調を悪そうにしている。


「大丈夫? 風邪?」

「いえ、風邪ではなくて……その、生理です……」


 女性には月一でどうしてもきてしまうもので、桃花の生理は今日からのようだ。

 一応、女性のことを知ろうと思い康生も少し調べたのだが、普通はここまで体調を悪くするようなものではなくて、桃花の生理は明らかに他の人より重い。


「あ……これは……」


 ベッドにいつもとは違う違和感を感じて見てみると、シーツが少し血で染まっていた。

 それに伴い良平や桃花の服にも少し血がついており、彼女の顔が白くなっているのは生理による貧血なのかもしれない。


「桃花の生理ってこんなに重いの?」


 一緒に住み始めたのは今月からだから良平に桃花の生理についてはわからないが、今まではこんなに体調を悪そうにしていなかった。

 たまたま生理じゃない時に佐藤家に来ていただけと考えるのが普通であるが、それだけでは説明出来ないくらい変だ。

 頻度的にはそこまで多いってわけではないが、桃花は佐藤家に結構来ていた。

 生理がいつもここまで重いのであれば、良平も体調を悪くしている桃花を見ていても不思議ではない。

 でも、良平は今までそんな桃花を見たことがなく、今日は本当に具合が悪そうだ。

 たんに体調不良の時は家に来なかったって可能性もあるが。

 ちなみに妊娠の誤解を解くために学校で言った生理はフェイクであり、本来の周期とは違う。

 今日のがいつも通りであるとすると、月末の一週間前から桃花の生理が始まるようだ。

 先月も同じくらいに来たとしたら、ちょうど夏休みに桃花が佐藤家に泊まりに来たタイミングと一緒……先月はここまで辛そうにはしていなかった。


「その……いつもはピルを飲んでるのですが……今月は飲んでなくて……」

「何で飲まない?」


 飲まない理由を良平が尋ねると、桃花らしい理由を口にした。


「だって……飲んだら妊娠出来ないじゃないですか……」


 ピルは生理を安定させる以外に飲んでる間は妊娠しなくなるという作用がある。

 それを狙って飲んでいる人もいるだろうが、桃花が飲んでたのは生理を安定させるためだ。


「だからって飲まないの?」

「飲み……ません……いつでも妊娠出来るようにしたいので……」


 桃花の妊娠願望は本当に強く、そのためなら体調を悪くしようが飲みたくないのだろう。


「飲もうよ。今から飲んで今回の生理が安定するかわからないけど……」

「今回のには……効かないでしょうね」


 ピルについては良平に詳しいことはわからないが、桃花が飲んでいるのは毎日飲まなければいけない薬。

 即効性があるわけではないので、今日飲み始めたからっていきなり楽になるわけではないだろう。


「それでも飲ますから」

「うう~……」


 良平の言うことなら何でも聞く桃花が珍しくゴネている。

 よっぽど妊娠したいということなのだが、辛いなら飲んだ方がいい。


「桃花……飲んでくれたら桃花の初めてを貰うよ」

「……え?」


 良平の言葉に桃花の瞳が丸くなる。


「だから……飲んでくれたら桃花を抱く」

「本当……ですか?」

「もちろん」


 桃花の柔肌を触っているからか、少しずつ良平も性的興奮を覚えてきており、彼女を抱くことは出来るだろう。

 それに独占したいくらい桃花を想っているということは、良平は彼女のことを好きな気持ちは確実にある。

 抱くって言わないとこの先も飲まない可能性は大いにあり、その内することにはなるのだから、このタイミングが丁度良い。


「じゃあ、今すぐにしましょう」

「今はダメ。生理が終わってから」


 体調を悪くしているのだし、流石に抱くことなんて出来るわけがない。

 良平にとって桃花は大事な人であるので、今は体調を良くするのが最優先。


「約束……ですからね?」

「うん」


 辛いながら桃花は笑顔を浮かべる。

 約束したってことは確実に最愛の人である良平に初めてを捧げられるのだし、桃花にとってこれ以上嬉しいことはないだろう。


「とりあえず今の状況をどうにかしないとな」


 良平は手錠を外して部屋から出ようとするが……。


「お兄さんと……離れたくないです」


 外した手錠を持って、桃花は何故かまた手首につける。

 手錠をつけたままでは片付けしにくいが、それでも桃花は良平と離れたくないようだ。


「詩織を呼ぶか……」


 スマホで詩織に電話をかけて理由を説明し、痛み止めの薬やタオルなどを持ってきてもらった。

 予想していたより酷かったようで、詩織が驚いたのは言うまでもない。

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