第24話

 OS。オペレーションシステム。マスコミが使う基本ソフトという言葉はあまり好きじゃない。

 ざっくり言うと、コンピューターの制御をしてくれるソフトウェアである。身も蓋もない言い方をすると、人間がやるには面倒な様々な裏方をしてくれているものだ。

 初期状態では、経典にある命令を口頭で唱えると一行ごとに実行。これがOSなのかは不明。プログラムの実行とメモリ管理をしているような気がするけど、どこにそのプログラムがあるかわからないので、検証不能。

 経典が某プロセッサ(CPU)の命令と似ている件も、実はよくわからない。いや、もしかするとどのプロセッサとも互換性がある説。と、すると魔法そのものが仮装のもの? いや世界そのものが仮想の現象かも?

 でも確証はない。実は「VRMMO世界でデスゲームをやっているかも?」と疑ったこともあるけど、どうやらそうではないみたい。

 なお、アクセス先が脳内なのか、それとも違う器官なのか、それとも魔法的な「なにか」なのかもわからず。

 どうもここを突き詰めると、神の存在の証明ができるような気がする。私の苦手分野である。哲学と神学は無理。私には向いてない。

 神様的な存在にネット経由でクラウド……つまりそれが宇宙。どうだろうね? そこは考えてもしかたがない。スケールが大きすぎる。

 とりあえずプログラムが実行できるしなんでもいいや。その辺は、いつか魔道士とか神学者が解き明かすに違いない。私はエンジニア。動けばいい。

 魔法は通常、師につくと「魔力をこめて」とか教わるらしいけど、どうやら関係ない模様。魔法の適性は音声での誤入力の数の差であるようだ。たぶんカラオケ採点機で94点取ることができるとちゃんと動く。これでは「みんなの」ではない。このシステムは却下。

 とりあえず最初に経典よりは普通の言葉に近いプログラム環境を作る。メモリ管理もそれに合わせる。

 音声入力は安定しないので、脳内入力。考えただけで操作ができる。補助として魔道式キーボードを使う。

 ここまでで、かなりの時間がかかっていたりする。仕様書がない状態で片っ端から調べるのってたいへんだよね。


 さあ、ようやくOSの話だ。OSは元日本人としてはTOR●Nにしたかったが、触ったことないので見送り。悲しい。

 昔のコンピューターのシステムも捨てがたいが、残念ながら小さいころに買った雑誌付録のX6●kのエミュレータしか触ったことがない。よく知らないので涙を呑んで見送り。

 ソースコードまで読んだことがあるのはLin●xとFreeB●D。機械の言葉に変換するコンパイラの都合で前者にした。あくまで私個人の都合、というか趣味の問題なので異論は認める。そもそも、うろ覚えで一から作っているのであんまり変わらない。

 この辺の私のこだわりが使う人に伝わるかという問題もある。いや確実に伝わらない。どうでもいい。

 最初はコマンドライン……この辺は退屈なので省略。要するに元の世界のいわゆるパソコンにするまでには、軽く10年かかったということだ。

 なんだかほとんど自分の都合で作ってるな。まあいいや。世に出さえすれば、私より優秀な誰かが改造してくれるだろう。私程度の技術者なんて元の世界にはゴロゴロいるのだ。たぶん、この世界にも独自OSを開発した人だっているんじゃないかな。公表してないだけで。

 私はあくまで「公表した最初」なんじゃないかと思う。

 ここまで長く書いて言いたいことは一つ。死ぬほど苦労したので褒めてください。


 さて、私たちは講堂へ案内される。

 講堂の中には、目つきの鋭いおっさんたちがずらり。

 うん、これガンつけてるんじゃなくて、みんな目が悪いんだわ。


「ようこそお越しくださいました。ウィリアム殿下」


 みな膝をつく。

 まずはウィルの挨拶を待つ。


「急な訪問ですまなかった。まずは紹介しよう。我が王都産業学校が誇る天才技術者レイラだ」


 褒めすぎである。


「レイラ・ロリンズででございます。本日はこのような場を設けていただき、誠にありがとうございます」


 と、挨拶したところで不意打ち。

 超・必殺、いきなり印刷!

 シャコシャコと資料を印刷する。


「……今なにを?」


「まずは私の開発した魔術支援システムのデモンストレーションにございます。まずは、このように文書を魔法で作り出した用紙に印刷することができます」


 翻訳:紙とかめんどくさ、さっさと資料はネットで共有して、チャットで打ち合わせする時代にしたい。


「レイラ、雑念がこもってるぞ(ぼそっ)」


「勘のいい美形は嫌いだよ(ぼそっ)」


 私が資料を渡していくと声が上がる。


「なんと言う美しい文字だ……これが全て魔術によるものだと」


「見ろ、どの資料も寸分違わぬ。……この考えはなかった」


「レイラ嬢、これは印刷だけなのですかな?」


 白髪のおじいちゃんが質問した。


「いいえ、魔術の支援システムですので」


 そう言うと私は両手を前に出して、手の間に放電。

 本当はこういう派手なだけってのは嫌い。

 でも今は必要だ。


「な、なんと! 無詠唱だと!」


 驚くのも無理はない。

 放電なので普通に入力するとなると雑に説明すると、「入力開始するよん」「電気流すよ宣言」「数値の入れ物を確保するよ」「電気とか方向とかのパラメータ入力してくれや」「方程式の計算処理」「ここのパラメータで放電するよ」「使った場所のメモリ解放」「入力終わり」という処理になる。本当に雑な説明で申し訳ない。

 実際は、風向きとか大気イオンの数値をセンサーで読み取ったり、などの細々したものや、純粋に内部の処理をするだけの命令もあるので、もっと複雑である。しかも一番効率の悪い手段での入力なので、簡単な命令でも、経典にして200くらいの文章を音声で入力する必要がある。実際使うときは歌一曲くらいの長さになっちゃうかな。効率が悪く、応用が利かない。

 パラメータまで毎回同じなので結果も安定しない。しかも書いたコードは初期状態では保存できない。補助記憶装置が使えないから。なので魔道士が腕を磨く場合、基本が経典の暗記になる。とまあ、無駄の極みである。


「あらかじめ命令を保存することができますので、無詠唱で呼び出すことが可能です」


 ザックリと説明した。

 本当はそこよりも大規模なプログラム書けちゃうし呼び出せちゃうよね。ってところが重要なんだけど、こういうのは触らないとわからないよね。


「ほう……画期的ですな(笑顔だが冷や汗)」


「おい……まさか(なにかに気づいた)」


「これ欲しい」


 最後に本音が聞こえた。


「もちろんご用意しております。インストールシート印刷っと」


 さあ、こちらにおいで。


「このシートに目を通してください。読む必要はありません。見るだけで結構です」


 なお、最初にこのインストールの犠牲になった人は、私の家庭教師だ。魔法じゃなくて詩の先生。

 あまりの衝撃に修道院入って出家しちゃったんだよね。

「神を見た」とか言って。

 私にはわからない世界だ。でも彼ら魔道士なら、このシステムも受け入れてくれるんじゃないかな。たぶん。

 私は印刷をし、インストールシートを彼らに渡した。

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