第百三十八話 全てを喰らう者 / 銀河捕食大怪獣ユーデアーラ・ディストピア(第二形態)登場

 空の彼方で光の線が煌き、その度に空に浮かぶ巨大な顔が苦痛に歪むのが見えました。


 魔王城城下街。人々や私達は固唾を飲んでただその光の軌跡を目に焼き付け続けていました。


「頑張れー!!」


「魔王様ー!!負けるな!!」


 様々な声援が飛び交っております。


『勇者殿ー!!そこだー!!』


 嗚呼聞こえるでしょうか。通信がつながっている事も忘れて、シュミ=タ様が叫んでいます。


 聞こえるでしょうか、魔王様、勇者様。


 皆貴方達の事を信じています。


 魔界の地表に、光が溢れるのが見えます。貴方を信じた人々の心の輝きが此処に集っているのです。


 私はそれを見て誇らしく思いました。私が呼んだ魔王様は、こんなにも素敵な、こんなにも皆に信じられている魔王様なのだと。


 それと同時に少しだけ寂しくもなりました。トンスケも同じような顔をしています。嗚呼、私達はこんなにも無力なのかと。


「ひぃ、ふひぃ、疲れた、疲れたざんす。もう、もう疲れきったざんす。」


 おや。気づくと横にはいつの間に訪れたのか、フルモ=トーンドロ様の姿がありました。


「どうされました?」


「どうされたもこうされたもないざんす。ちょっと来るざんす。」


 そう言うと彼は私はトンスケの腕を掴んで引っ張り出しました。


「え?」


「んん?」


「いいから来るざんす。アンタらにしか任せられない仕事があるざんすよ。」


 私達は引かれるままにフルモ=トーンドロ様の行く先へと向かう事となりました。



*******************



 情勢は決しつつあった。


 物量で押し切らんと次々にユーデアーラを生み出すユーデアーラ・ディストピア。だがその全てを斬り裂き、三つ目の目から生える巨大ユートへと迫るブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァー。その速度は多少落ちこそすれ、止まる事は無かった。それが意味している事は一つ。何れ巨大ユートを斬り裂くその射程圏内へとブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァーが、世界の救世主が、辿り着くであろうという事である。


『く、来るな!!来るなあぁぁぁぁ!!』


 恐怖の化身の心に生まれた、自らの代名詞たる感情が更に大きくなる。ユートがかつて同じような相手と対峙した時に味わい、そして奥底に仕舞い込んだはずの感情が。口から手から魔力を放ち、眼前のハエを撃ち落とさんとする。だがその八枚羽のハエは全ての攻撃を叩き斬り、更に更に近づいていく。


「「これで終わりだ!!」」


 そして、そのハエのように小さな、だが偉大な心と力を備えた金色の騎士は、その手に握る両刃刀を振りかざし、BRAVEのダイヤルを一周させてトリガーを引いた。


 [B・R・A・V・E!!BRAVE CHARGE!!]


 [セイヴァーセイバー!!][サルベーション!!][ブレイブ!!][ノヴァ!!]


 両刃刀に装填されたバロットレットが叫び、そして刃に光を灯す。


「「はぁっ!!」」


 両刃刀が振り下ろされ、白と黒の太刀筋が十字を描き、金色の光を纏って暗黒の宇宙を駆ける。


 それを防ごうと恐怖の化身は手を顔の前にやり守備の体制を取る。


 だが、ズバァッという斬り裂く音と共に、それの腕は胴体と切り離されそして消滅し、そのまま光が恐怖の化身、ユーデアーラ・ディストピアの、ユートの肉体を模した巨大な人間の上半身へと直撃した。


『フェギャッ…。』


 その一言と共に、三つ目の目から生えていたユートの肉体は十字に裂かれ消滅した。


 だが。


『シギャアアアアアアッ!!』


 その下に控えていた、更に巨大な顔、星を飲み込んだ張本人が苦痛に顔を歪めた。


 ブレイブヘルマスターが見る限り、大きなダメージとはなっていない。その巨体さ故に痛みこそ感じても、ダメージとしては大した量には至っていないようであった。


 だが彼、あるいは彼女にはそれは無意味だった。


「「ならば!!」」


 再びBRAVEのダイヤルを一周させ、


 [B・R・A・V・E!!BRAVE CHARGE!!]


 トリガーを二回引く。


 [セイヴァーセイバー!!][サルベーション!!][ブレイブフィニッシュ!!][ノヴァ!!]


 先程よりも更に強い光が、真っ直ぐに三つ目の怪物へと奔る。


 ズバァァァァァッ!!


「ギィッ…。」


 真空であるはずの暗黒の宇宙に、ドカァァァァンという大きな音が響く。


 金色の騎士の放った斬撃は、無に近い肉体を引き裂き、呆気なく爆散させた。



 はずだった。



『フギェヘェ、フギェヘェヘェヘェ!!』


 ユートとデアーラの声が混ざり合った、奇怪な声が轟く。


 すると、巨大な三つ目の顔の先にあった、ユーデアーラ・ディストピアの胴体が、ゴゴゴゴという音と共に亜高速で


「「これは…。」」


 誰もが思っていた。星から見える三つ目の顔がユーデアーラ・ディストピアの顔だと。そしてエレグとサリアも思っていた。その顔が付いた肉体、目に映りきらない程大きいそれが、ユーデアーラ・ディストピアの胴体であると。


『フギェヘェヘェギェヘェ!!ワレが!!ワタシが!!これだけの存在と思うたか!?ワレは!!ワタシは!!全てを喰らう者なり!!宇宙のゴミを!!否!!違う違う違う違う!!ゴミたる宇宙を!!全て!!喰らう!!それが!!ワレ!!ワタシの!!使命であり!!欲望である!!』


 その認識は異なっていた。


 胴体が、もはや常人には理解な巨大さを誇る胴体が開いた。そこには宇宙があり、星があり、彼らには見えなかったが、都市がある。そして彼らの前には牙が見えた。宇宙を噛み潰す程巨大な牙が。もはやブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァーが塵芥、いや、原子に例えられる程の対比であった。


 ユーデアーラ・ディストピア。その胴体は胴体では無かった。


 喰らい死した宇宙をも内包する巨大な顔であった。


 あくまで目に見えていた顔は、その一部であり、ブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァーが斬り払ったのはあくまでほんの、ほんの一部だけだったのだ。


『フギェヘェヘェヘェギェェェェェェェヘェェェェェェェェァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!』


 宇宙空間にその笑い声が轟く。ブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァーはその手の剣を改めて強く握りしめた。星、いや太陽系、あるいは銀河すらも喰らう事の出来るアバドンの大顎が、開かれたのを感じた。

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