第百三十七話 舞い上がれ!金色の騎士!

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」」


 雄叫びと共に八枚の輝く羽をはためかせ、速度を増して重力を振り切り、ユーデアーラ・ディストピアの眼前へと舞い上がるブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァー。


 [セイヴァーセイバー!!]


 手に握りしめた武器が叫ぶ。ブレイブエクスカリバーとヘルマスターワンドは、デュアルボウトリガーを介して一つとなり、二つの武器を超えた存在、セイヴァーセイバーへと進化していた。


『フヒェ…ヒェェェェェェ!?』


 笑声が止まり、爆発音が轟く。


 そのセイヴァーセイバーで降り注ぐ中型ユーデアーラを一閃しながら、魔王と勇者、そして全ての民の心が一つに混ざり合ったそれは、真っ直ぐに空を駆け上がって行った。


『なんだ…その姿は…!?』


 動揺に包まれた言葉を吐く恐怖の化身。雄大な肉体を誇るユーデアーラ・ディストピアが、自身よりも遥かに小さい金色の騎士に恐れを感じていた。本来自分が喰らうはずの、自分が求めていたはずの魔力の塊。だが今はそれに圧倒されていた。そこには強い意思が、そして二人の意志が伴う事で、自らを害するに足る力が備わっている事が、本能的に理解出来たのである。


 そこまで超高速で翔け上がってきた金色の騎士は、恐怖の化身の眼前で停止し、そしてセイヴァーセイバーを前に突き出して言った。


「「刮目せよ!!」」


 二人の声が混ざり合い、一つの音として発せられるそれに、恐怖の化身はたじろぎ、その開けた巨大な口を思わず閉じた。


「「私はブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァー!!この星に住まう、全ての命の意思を受け、此処に降臨した者である!!」」


 金色の騎士は手に持った剣を振るい、胸を手を当て、宣言した。


「「私は許さない!!これ以上、この星の命を、この宇宙の命を奪う事を!!」」


 そして、手にした武器のダイアルを[A]に合わせトリガーを引いた。


 [サルベーション!!][アサルト!!][ノヴァ!!]


「「はぁっ!!」」


 金色の剣筋が、暗き宇宙を照らすように走る。


 更に騎士は攻撃を続ける。今度はヘルマスターワンドの炎アイコンをタップし、トリガーを引いた。


 [サルベーション!!][ファイヤー!!][ノヴァ!!]


 炎と金色の剣筋が一つとなり、十字を描いて光を放ちながら飛んでいく。


『ふ、ふぇ、フェヒェッヒェ!!そ、そのようなもの、私が噛み砕いてくれる!!』


 思わず唖然としていた恐怖の化身が再び動き出し、その三つ目の下にある長大な口を大きく開けた。その口の中、歯車のマークのついた牙に向かって、その剣筋が飛翔する。


 ガキィッ!!という鋭い音が響く。本来空気の無い宇宙空間であるが、魔法によって生存可能領域を広げられた結果、音もまた響くようになっていた。


 その音の元は牙であった。牙に剣筋が届き、そして本来であれば無に帰すはずの剣筋が、牙にぶつかり、そして牙を叩き割った音であった。


「「ライフアンドデスファング、壊させて貰った。」」


『な…。なぁっ…にぃっ…!?』


 ユーデアーラ・ディストピアは驚愕した。


 この牙の出自は自分にも理解出来ないが、この牙が秘めた力は理解していた。強大な魔力でコーティングされたこの牙が壊される事など、あろうはずが無い。


 ーーーそのあるはずの無い出来事が起きている。それは、眼前の金色の騎士が、自分の想像を遥かに超える存在であるという事を意味していた。


 本能のまま、ただ凡ゆる物を喰らい尽さんとしていただけのユーデアーラ・ディストピアであったが、ここで今自分が感じているものが恐怖である事を自覚した。人間であった時には抱いていた感情。機械では持つ事の無かった感情。それが今胸中に去来している事を本能で理解した。そして結論を出した。このままでは自分が滅ぼされると。


『オノレ……おのれ魔王!!おのれ偽りの勇者!!』


 そしてもう一つの感情が沸沸と湧き上がっていた。


 嫉妬。


 ここまでの魔力を、意思を集めた二人が集める崇敬の念。それを何故自分が得られないのかという妬みの感情。それが恐怖の化身たる巨体を動かした。


『許さぬ!!』


 偽りの勇者、悪しき魔王。自分の進む道を阻む者、全てを消し去る。ユートの抱く感情が、ユーデアーラ・ディストピアの全てを支配した。


「「偽りの勇者はお前だ、私欲に塗れた悪意の塊、ユート・デスピリア。いや、もはやただのユーデアーラ・ディストピアか。」」


 ブレイブヘルマスター・ユニバースセイヴァーはピンと人差し指を立てて、怒り狂う恐怖の化身を指差して言った。


「「お前の邪道、ここで止める!!」」


 そしてセイヴァーセイバーを構えると、宇宙に光の筋を描きながら、超巨大な口を開けるユーデアーラ・ディストピアへと突進していった。

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