第百二十二話 結論

 俺は背中に手を回し、フェリルブリザードプロトバロットレットと、ヘルマスターワンドを準備した。いざという時の備えである。


 実際のところ、俺はフルモ=トーンドロが恨みを捨てているとは思えなかった。何せ千年前から育んできたものである。煮えたぎった物があるだろう。早々捨てられるものでは無いのは内心理解していた。正直、実時間では二十年ちょっとしか生きてない俺如きが、どうこう言えるものでは無いのかもしれない。


 それでも何とか抑えてもらわないといけない。今はこの星がどうなるかという場面である。同じ星に住んでいる命として、まずはこの難局を乗り切る、それを考えてもらいたい。


 …無理かもしれないが。


 俺は恐る恐る口を開いた。


「あ、あの、そのう。」


 フルモ=トーンドロはしばし目を瞑りながら、俺の言葉を遮るように口を開いた。


「……頭は冷えたざんす。」


「あ、ああ、そうですか。」


「アテクシは、別に自分が悪いとは思っていないざんす。アテクシの恨み辛みは正しいものざんす。…ざんすが、アテクシの怒り、少々長い事寝かせすぎた感はあるざんすね。」


 そう言ってボーガン公の方をチラと見た。目は合わせない。


「……ああ、その場でやり返せば良かったのかもしれないざんす。もっと早く、怒りをぶつけるべきだったざんす。…今となってしまっては、アテクシが間違っているようにしか見えないじゃないざますか。」


 そう言って、彼は両手を上げた。


「止めるざんす。少なくとも今は。」


 ゴブリン・ザ・キングも動く様子はなかった。


「今は人間達の、この毎日アテクシの様子を見にくる暇人達の、歩みや反省を見させてもらうとするざます。こいつを動かすのは、その結果次第とさせていただくざます。」


 俺はほっと胸を撫で下ろした。


「勘違いしないでほしいざんすが、あくまで様子見ざんす。結論の先送りざます。いざとなれば、止めても無駄ざますよ。」


「勿論。見ていて欲しい。我々は、もう過ちを犯さない。」


 俺が何か言う前に、ボーガン公が割り込んだ。胸を張って、堂々として発したその言葉、その態度を見て、フルモ=トーンドロはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「で、魔王さん。アンタは結局どうするざんすか。」


「何が?」


「何が?じゃないざんしょ!!あのバケモン!!アイツがこっちに来る時、自然界を盾にする"以外"でどうやって対処するざんすか!!」


 そう言えば初代勇者はそれで悩んでいたのだった。突然こちらに振られたので答えに戸惑った。というかまだ考えてなかった。もう少し後でいいかなって。


 それが顔に出たのか、フルモ=トーンドロとジュゼ、サリアまでが呆れた顔をした。


「アンタ……何も考えて無いのによくあんなに偉そうに言えたもんね。」


「もう少し考えていて欲しかったですね。」


「何の策も無しとは…これは魔王降ろした方がいいざますかねぇ。」


「いや待て待て待て待て、今考えてるから!!」


 今なの、という非難の声が聞こえたが無視する。忙しかったんだ仕方ないだろ。ああ何か出てこい、今すぐ出てこい。最悪時間を止めてでも捻り出してやる。


 俺は今手持ちの力を思い返してみた。


 エヴォリューションアウェイクニング、これはまぁ応用は利くけどまず他があってのことだ。


 ドラグボルケーノ…は攻撃用だ。というかプロトバロットレットはどれもこれも攻撃色が強い。もう少し汎用性のあるもの…。


 タイムルーラー、これは…いや、時間を止めてもデアーラを引き込む手立てが無い。他にないのか。


 …あ。


 閃いた。


 俺は天才か!!


「ふふふふふふふふははははははは。」


「何よ気味悪い。」


「何か思いつきましたか?」


「どーせロクな案じゃないざんす。」


「何でもいいけどウチの国には被害を少なくしてくれると助かる…。」


「大丈夫だボーガン公。俺は自然界に影響を与えないナイスなアイデアを思いついたぞ。」


「自分でナイスとか言っちゃう辺りがなんか残念な感じですね。」


「黙れジュゼ。いいか?これを使うんだ。」


 俺はあるバロットレットを取り出し胸を張った。


 それはーーー。

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