第百十一話 燦爛たる勇者
「アイツを信じているからよ。」
「…あの魔王を?」
「ええ。アイツなら何とかしてくれるって。」
アタシは出来る限り優しい声で言った。
「アンタが心配する事もわかる。アタシはそこまで頭は良く無いけど、外から来るあの化物が来たらまず自然界を襲いそうなのは理解できる。前回はアイツへの恨みからなのか、直接魔界に来たけど。」
「そうだろう?心配じゃないのか?君も自然界の住人だろう?」
「心配だけど、アタシは信じてる。アイツなら何か考えてくれるって。だからアタシは、アイツの力になりたい。アイツが必要としてくれるようになりたいの。」
「……そこまで信用しているのは何故だ?」
「アイツは、この世界の住人じゃなかったの。」
そう、アイツはこの世界の住人じゃない。ただ巻き込まれただけだった。
「でもアイツは、それでも魔王としてあろうとしている。魔界を守ろうとして、結果もちゃんと出してる。魔界だけじゃない。アイツは魔王だけど自然界も守ってくれた。アタシも、アイツに助けられた。」
アタシは眼前の勇者の目をしっかりと見つめて言った。
「だからアタシはアイツを信じる。魔王を。魔王エレグ・ジェインド・ガーヴメントを。」
「……。」
「まぁ何も考えてなかったら張り倒すけどね。」
勇者は目を瞑り、少し何かを考えているようだった。やがて目をゆっくりと見開くと、言った。
「君のような勇気があれば、私もこうはならなかったのだろうな。」
そして手を翳し、アタシにホープフルブレイブプロトバロットレットを取り出すようにいった。アタシはそれを取り出し、彼の手に合わせた。
「君に、彼の力となるための鍵を渡す。」
「鍵?」
「ああ。君には、使いこなせていないだけで、心の奥底に魔力を秘めている。燦爛と輝く勇気の光の魔力が。」
だからあの時、ブレドール王国が洗脳されている時に、影響を受けなかったのだろうか。
「私の力をそのバロットレットに注ぎ込む事で、ブレイブエクスカリバーを通じて、君の魔力を解放させる事が出来るようにする。そうすれば、君の力は何倍にも増し、あの空より来たる怪物にも対抗出来るはずだ。」
それは嬉しい。もうあんな思いをしなくて済むというわけだ。
だが一つ気がかりな事があった。
「アンタはどうなるの?」
「消える。」
彼は即答した。
「ちょっ、それは…。」
咎めるアタシに、彼はグチャグチャとした顔でも出来る限り、先ほどのアタシのように優しく微笑もうとしながら、首を横に振った。
「いいんだ。元々死んでいる身だ。このまま生き存えても何かを成せるわけでもなく、君達の戦いに参加する事が出来るわけでもない。」
「でも…。」
「私がそうしたいのだ。好きにさせてくれ。」
そう言われてしまうと、アタシはそれ以上何も言えなかった。
「私の過ちを、君が正してくれ。魔王を信じ、そして、自然界を救ってくれ。」
「……わかった。必ず。」
「頼んだぞ。燦爛たる勇気を持つ者よ。」
そう言って彼は、バロットレットの中へと消えて行った。
後には静かな、そして古びた遺跡と、少し溶けた彼の肉体、そして、
アタシはそれを強く握りしめて、そして外へと出た。
少し経ってから。
「行こう。」
誰にとも言うわけでも無く、一人呟くと、アタシは自然界の他の国への行脚を再開する事にした。
アイツはきっと今も魔王としての職務をこなしている。アタシも、勇者として出来る事をするんだ。
そう強く心に誓い、アタシは初代勇者の墓を後にした。
墓には、外に出た直後にアタシが捧げた花が、太陽に照らされてキラキラと輝いていた。
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