第百話 最強魔王に転生しました
「本は時間を戻して何とかなる!!時間を止める間が持たない!!避けて!!」
ティア様の声は私に届きませんでした。ただただ、絶望に打ちひしがれたまま、私はへたりと座り込んだままでした。その私に目掛けて触手が伸びてきました。それが私にはスローモーションで見えました。鳥瞰するかのように。
そして、その、触手がーーー。
スパッ。
そんな音を立てて、触手が落ちました。
「時間を戻す必要は無い。」
誰かが言いました。聞き覚えのある声が。
「ま…おう…さま…?」
私が呟くと、眼前にいる彼は、私の方を振り向き、そしてニコリと笑みを浮かべて言いました。
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リファとデアスの胴体から出てきたエレグは、頭をポリポリと掻き毟りながら、吐き捨てるように言った。
「俺は良いって言ったのに。」
『意識を移動 したのはお 前も同じで ある』
『然るにお 前にも権 利はある 元の世界 に戻る権 利が』
リファとデアスの言葉を聞くと、彼は呆気に取られていた俺を指差して言った。
「権利は放棄だ。……当然だが、お前が行け。俺にはその資格は無い。」
「い、いや、でも。」
俺は何と言えばいいのかわからない、困惑のまま口を開いた。
本来であれば彼の体だ。彼に資格がないという事もあるまい。
それに、勿論帰らせてくれるならそれに越した事はないが、あまりにもすんなりと受け入れる理由が気になった。帰れない、それは即ち、彼が死んだままになる事を意味する。
そんな俺の考えを読み取ったのか、彼は言った。
「俺はバカだった。俺は自分が楽しければ良いと思って好き勝手やりすぎた。そのしっぺ返しを食らったと気づいたのは、こっちの世界の地獄に落ちてからだよ。」
彼は自嘲するように笑みを浮かべた。
「それから少しの間は、あいつらを恨む事もあった。だけど地獄から、お前の姿を、俺の代わりに魔王として立ち振る舞うお前の姿を見て、自分が如何に愚かだったかを理解した。それと、」
彼は俺をーーーいつの間にか元の一清の姿に戻った俺をーーー指差して言った。
「お前が如何に、あいつらの信頼を得ているかを。」
信頼。
「…大丈夫かな。」
「勿論だ。胸を張れ。昔の俺みたいに。」
そう言って彼は俺の胸に手を当てた。
「お前が、エレグ・ジェインド・ガーヴメントだ。ーーー不本意な名前かもしれない。不愉快な名前かもしれない。だが、お前ならきっと、この名前を名君の代名詞にしてくれると信じている。俺が刻んだ暴君のイメージを消しとばしてくれると。」
彼はそう言いながら光の粒子へと変わっていく。その粒子は俺を包み込み、そしてエレグの姿へと変換していく。
「これでお前は、俺になる。俺の全てを得る事になる。」
変換が終わり、少しずつ薄くなっていく彼は、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながら、言った。
「行け、エレグ・ジェインド・ガーヴメント。真の力をあのバカに、あの邪悪な勇者様に見せつけてやれ。」
俺は、強く頷いた。
『決まったな』
『決まった ようだな』
『ならば行け 魔王と呼ば れし者よ』
『約定を忘 れるなか のアイテ ムは世界 に三つ』
『時間=タイムグローブ』
『空間=コネクタブルブック』
『『生死=ライフアンドデスファング』』
『全て壊し神 の力の悪用 を防げ』
『そして世 界に平穏 を」
『『行け魔王よ』』
「あ、ちょ、ちょっと待って!!さっきまでの体は?おっさんはどうなるの?俺お前らが言うからって飛び降りちまったぞ!?」
『案ずるな元 に戻す』
『心も戻す 向こうの 世界から こちらの 世界へと』
「じゃあこいつに伝えてくれ!!』
『なんだ』
『何をだ』
「生きてくれって!!辛い事があっても!!命があればどうにかなるって!!」
『仕方ない伝 えよう』
『止むを得 ない受け 入れよう』
『『ではとっとと戻るが良い』』
その言葉と共に、俺の意識は何度目だろうか、ふいと煙のように消えていきーーー。
*****
『これで良か ったのか』
『お前を戻 す事も出 来たのだ』
『そもそもア イテムの破 壊も奴に頼 む必要は無 かった』
『お前が自 分を使え とこの世 界の地獄 から言っ てきたか ら呼び出 したとい うのに』
『このままで はお前は消 えるのだぞ』
「それでいい。俺を使えって言ったのは、アイツを元の世界に戻すために決まってるだろ。」
『奴にそんな に賭けてい るのか』
『現世の生 命の考え は理解出 来ない事 が多いな』
「俺の尻拭いをしてくれてるからな。…アイツが元の世界に居る事を望んだなら、別の答えを出したかもしれないが。」
『ふむそうい うものだろ うか』
『まぁお前 が納得し アイテム を破壊し てくれる なら良い』
『うむ我らが 望むのはそ れだけだ』
「それは大丈夫だろ。多分な。ーーー頑張れよ、俺。」
そして、男は居なくなった。
*****
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「ーーーああ、ただいま。」
少しだけ寂しそうな顔でそう言うと、彼はヘルマスターワンドを取り出し、そしてアウェイクニングバロットレットを取り出しました。
そのバロットレットの姿が光に包まれて変わっていきます。
まるで殻を脱ぎ捨てるかのように。
「見せてやる…。本当の…俺の…!!エレグ・ジェインド・ガーヴメントの力を!!」
そう言って彼はバロットレットを開き、
[開票!!]
そしてそれをヘルマスターワンドにセットしました。
「さぁ…刮目せよ!!」
そして彼がトリガーを引くと、光が溢れ、襲い掛かろうとした触手を光の渦で跳ね除けながら、音声と共に黒と白の入り混じった鎧がどこからともなく現れ、彼の全身へと装着されていきました。
[真価を見せる刻が来た!!臣下を守れ、真の力で!!]
[シンカ・しんか・Shinka!!・真・心・新・進!!E・V・O・L・U・T・I・O・N!!Awakening!!Hell-Master!!]
[降臨!!]
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