第八十七話 真の姿

『幾ら何でも多すぎるだろう!!何やってるんだ!!この世の理が崩れたりしたらどうするんだい!!』


 その後更に八十回の試行の末、ティアから更なる苦情が届いた。流石にやりすぎか。だがこの試行の結果、何とかコリズィーオに少しの自信を持たせることに成功した。


 初代魔王はお前にゆっくり育つことを期待していたんだとか。人々も期待しているとか。期待に焦って答える必要はないとか。小さなことからやらせて自分は出来る奴だと思わせるとか。


 やってることは完全にカウンセリングのそれである。俺はその手の知識は疎いぞ。というか神が細かい事気にして自信喪失してる小心者ってどういう事だよと言いたくなる。だがそういう人…魔獣でも神になれるというのは人々にとって希望になるかもしれない。ならないかもしれない。


 まぁいい。とにかく一段落は着いた。後は本人の心持ち次第だ。


「すまないが俺が手伝えるのはここまでだ。さぁ。」


 最後の仕上げ。ちゃんと制御出来るかを試す意味合いで、俺はコリズィーオに前に出るよう言った。彼の住んでいる大地の外、荒れ狂う大地へ向けて魔力を放つように促す。


「で、では。」


 彼は鼻を鳴らしながら、手を大地に向けて翳した。すると大地の上下移動が止まり、やがてゴゴゴゴゴという轟音と共に大地がくっついていく。そして、崩れ穴のようになっていた大地が平坦になり、広い平原へと形を成していった。


「おお…。元に戻った…。」


 これが元の姿なのか。今までは鳴動してばかりで形も何も無かったから、まるで分からなかった。


「ありがとうございます…!!これで自信が復活しました…!!」


 そう言うとコリズィーオは椅子に座った。


「これで…これで…漸く…。」


 すると彼と彼の座った椅子に魔力が迸った。


「なんだ?なんだ?大丈夫なの?」


「大丈夫です…これで…ワタクシは…。」


 魔力が椅子を包み込み、そして彼を包み込む。電流が迸るかのようにバチバチという音を立てながら、コリズィーオの体が光に包まれていく。


 やがて爆発するかのように光が溢れ、俺達は目を伏せる。そして光が収まった時、


「ブッフィィィィィィィ!!ついに復活したぁぁぁぁぁぁ!!」



 コリズィーオの声をした豚が叫んだ。いや牙がある。猪かこれ。



「ああこれだ!!地に足を着けたこの感覚!!四本の足でしっかりと立っている感覚!!まさしくこれを求めていたのです!!ブヒィ!!」


 何か喜びながら四脚でバタバタと駆けずり回っている。幸いというべきか何と言うべきか、周りの大地がそれに合わせてグラグラと揺れる事は無かった。やはりこいつは…。


「驚かせてすみません。ワタクシはコリズィーオ、土豚の魔獣です。」


 予想通り、コリズィーオの形を変えた姿だったようである。


「しかしありがとうごさいます魔王様!!そしてxxxxアウローロ!!何が「もう少し勉強しろ」ですか!!「シクシクシクシクいつも悔やんでばかりで鼻がうるさい」ですか!!自信が持てるまで姿変えとけと言われてこんな事に…。ああ…全く長い期間だった…。オークの姿でも鼻を鳴らすのは大して変わらないと言うのに…。」


 アウローロ。光の聖域の神。そういえばサリアが言っていた。彼女は元々インセクティアの姿をとっていたが、実態はデカいカマキリだったと。どうやらコリズィーオは、彼女に姿を変えられていたようである。ひでぇ事をする。


『オヌシがあれこれいつまでもウジウジ悩んでおるからじゃ。というか、未だに掛かっておったのか。』


 どこからともなく女性の声が聞こえてくる。


「アウローロ!!どこですか!!出てきてください!!」


『ワシの城じゃ。用があるなら今度にしてくれ。しかし魔王よ。お前も随分頑張ったなぁ。こやつは兎に角昔から自信喪失で小心者、何をするにもくどくど考えては落ち込んでしまうのじゃ。その考える過程で貧乏ゆすりしたり鼻をすすったりでうるさい事。特に四本足で貧乏ゆすり…というか地団駄踏まれると揺れて仕方なかったのでな。それで姿を変えてやったのじゃよ。』


「それは…その…申し訳無かったというか…。」


 急にコリズィーオが元の調子で言った。落ち込むな落ち込むな。


「まぁこれからはもう少し前向きに行けばいいじゃないか。なぁ。」


「は、はい!!そうします!!」


 巨大なぶ…猪は前を向きながらブヒィと鼻を鳴らした。ああ、この調子で毎度毎度リアクション取られていたら、確かにちょっと鬱陶しいかも。


『だろう?』


 心の声に反応しないでくれ。


『誰かも同じ事を言っとったのう。まぁ良い。ではの。』


 一方的に反応してきて、一方的にアウローロは通信を切った。


「地獄耳ですね。」


「言うな。聞こえるぞ。」


 ジュゼの言葉に俺は答えた。

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