第八十五話 揺れる大地は何のせい?
漸く本来の目的地、土の聖域へと辿り着いた。今度はちゃんと風の神の加護ーーーガルダストリームプロトバロットレットがある。なげぇな名前。これで通れるはずだと安心しきっていた。土の聖域に近づくまでは。
圧巻であった。ある地点が崖になり、その先の地面が上に下に横にとゴゴゴゴゴという轟音を伴いながら動いていた。先程までいた風の聖域とは異なり、こちらは常に動き続けていた。そして時には斜めに回転したりもしていたし、一時砕けてはまた大地の底から浮かび上がったり、上空で砕けてくっついて新しい大地となって上から落ちてきたり。無茶苦茶に大地が揺れ動いている場所であった。
「うわぁ。」
思わず言葉が漏れた。これは…ここで生きている生物なんているのだろうか。
「地面が砕けているわけではないので、地中で生息する生物はいるかもしれません。…とはいえ、この環境下で生存出来る方がいらっしゃるのでしたら、ある種尊敬致します。」
「同感。」
見ているだけで目が回りそうだ。
「よし、行こう。」
崖の前で俺はそう言うと、ヘルマスターワンド一式を取り出した。
[アウェイクニング!!][ガルダストリーム!!]
[[Hey!!Let's Say!! Calling!!]]
[目覚めたる魔界の王!!ヘル・マス・ター!!]
[Featuring!!]
[ゴーゴーバサバサ吹き飛ばせ悪意!!威風!!凜全!!ガルダストリーム!!]
[[降臨!!]]
ガルダストリームギアを装着すると、俺は再びジュゼの手を取り、もう片方の手で杖をかざした。
[Hurricane-Wind!!][ヘルマスター!!][ハリケーン!!][ウインドワンド!!]
そうして風を生み出し、地面に這うようにそれを配置する。土の神、コリズィーオとやらは恐らく深部か中央あたりだろう。そこに辿り着けるように、頭の中で風を吹かせる。そして足元と背中の翼をはためかせ、ジュゼを連れてその風に乗り、大地の鳴動の中を駆け抜けた。
やがて開けた場所に出た。先程までの大地のように上下左右に移動はしておらず、ある程度安定しているように見えた。
「一旦降りよう。状況確認したいし。」
「はい。」
一応ジュゼに告げて、その地に立つ。
すると地面が揺れた。なんだなんだ!?地震か!?二人で慌てていると、やがてそれは落ち着いた。何だったんだと思った直後、また揺れ出した。グラグラと次々に揺れている。一体なんだこれ。地震…だよな。でもなんでこんなに頻繁に揺れるんだ?
「む…。訪問者…でしょうか…?」
大きな声が聞こえた。そちらの方に目を向けると、巨大なオークが、これまた巨大な椅子に座っていた。何故気付かなかったのかというと、最初はちょっとした丘かと思ったのだ。それほどに巨大だった。
「その姿…。ウィーウィンドの…。という事は…今代の魔王様ですか…?」
するとそのオークが頭を掻きむしりながら貧乏揺すりを始めた。それに連動するように、俺達が立っている大地が揺れ動く。
「ああ…なんたる事…事前に伝えて頂ければおもてなしのご用意を致しましたのに…ワタクシのバカ…バカバカバカ…。」
今度は頭を叩き始めた。すると周りに浮遊している大地が上下左右にぐらぐらと揺れ始めた。
まさかこの…このオークのせいで…この大地が揺れているのか?
スケールの大きさにクラクラしてきた。
「あああ、何という無礼を。名乗りもせずにあれこれ悩んでしまうなんて、ああ、ワタクシはなんて愚かな…。」
神経質というか心配性というか、気にしいというか細かいというか、複雑な性格をしていそうだった。という事は、この人が?
「改めて自己紹介を…。ワタクシ、土の魔力を管理しております、コリズィーオと申します。以後よろしくお願いいたします。」
そのオークが椅子から立ち、90度腰を曲げてお辞儀をした。瞬間、頭上で二つの大地が激突し、ドガンという轟音が轟いた。
「あ、ああ、ご丁寧にどうも、こちらこそよろしく。…ところで、上で色々ぶつかってるんだけど。」
何が起きているのか、と尋ねようとしたところ、彼は地面に両手を落とし、膝をつけて跪いた。その衝撃で再び地面が揺れ、大地の動き方が不規則になっていく。
「あああああ、なんたる事を…。ワタクシはなんてダメな神なのだ…。ああ…。」
指摘したいわけではなく、単に聞きたかっただけなのに、何やら悲しみはじめた。
「ワタクシの、ワタクシのせいなのです。ワタクシが、初代魔王様から、仰せ使った指示を、未だちゃんと成せていないが故の事なのです…。申し訳ありません。申し訳ありませんんんんん…。」
何やら泣き出した。いや待て、俺が悪いみたいになっちゃうじゃん。
「い、いや、落ち着いてくれ。俺達はただ用事があってきただけで…。それに、君のその、なんだ、諸々を責め立てるつもりも全くないんだ。ともかく、面を上げてくれないだろうか。」
その言葉でコリズィーオは頭を持ち上げた。ちょうど俺達と目線が合う位置だった。
「は、はいぃ。」
そうして彼は顔を上げた。俺達は事情を説明した。
「…なるほど、土の魔力を…。ですがご覧の通り、ワタクシは十分には制御出来ておらず…。」
コリズィーオは再び泣き出した。情緒不安定だなオイ。
「まぁまぁまぁ、落ち着いて。」
「そうだ!!いい事を思いつきました!!」
いきなり明るくなった。
「ワタクシのこの性格、何とかして頂けませんか!?そうしたら、ワタクシもこの力を制御出来、魔王様に力を貸す事が出来ると思うのです!!」
…はい?
思わぬ提案に俺達は目を見合わせた。
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