第四十三話 帰還のための飛翔
サリア達の元に戻ると、ファーラの襲来にハイは身を震わせ怯え、サリアは剣を構えて迎撃の準備を整えていた。それはまずいと俺が前に出ると、彼女らは落ち着いたようで、サリアは剣を下ろし何があったのかと問うてきた。俺が一連の説明をすると、彼女は地団駄を踏んだ。
「くそっ!!アタシが居たらもっとぶん殴ってやったのに!!勇者の風上にも置けないわねそのクズ!!」
ああ、全く当代の勇者は頼もしいことである。
「まぁまぁ。俺が代わりにボコボコにしといたから。」
「Oh、素晴らしい。この星の王様はお強いのですね。」
ハイが褒めてくれた。魔王はこの地の王であり、星の王というわけではないんだが。だがまぁ、褒めてくれる分には悪い気はしない。俺はへへへと頭を掻いた。
「でもよくこんな早く動けたわね、アレ。」
サリアは吐き捨てるように言った。ユートはもうアレ扱いである。まぁ当然の扱いとも言えるが。その言い方はともかく、俺もそれは疑問ではあった。
「それは気になってた。この上に何があるんだろう。」
「我は知らん。とりあえず大空洞とやらがあるので脆くなっているとしか聞いておらぬのでな。」
するとサリアがうんうん唸りながら、捻り出すように言った。
「大空洞ねぇ。確か…その大空洞とやらは、アタシの国にあった気がする。行ったことないから、聞いたことがあるってだけだけど。」
「…またあの国か。」
サリアの言うアタシの国、それは即ちブレドール王国を指している。勇者信仰のあの国がこの上にあり、俺達の落下による崩落を探知してユートが即行動に移した、という一連の事実は、やはり奴がブレドール王国内に居ることを意味しているように思われた。それは以前ブレドール王国の民達が洗脳されていた事からも予想されていた事だが、更にそれを裏付ける事実と言える。
「やっぱりあの国に乗り込まないとダメか…。」
だが下手に乗り込むと国際問題になる。どうしたものだろうか。
「今考えても仕方あるまい。ここに長居するよりも、そこな宇宙人を保護するのが先ではないかね?」
ファーラ=フラーモ…長いのでファーラと呼ぶが、彼が諭してきた。仰る通りである。
「そうだな。そしてその前に、サリア。頼む。」
「勿論。」
彼女はバロットレットとブレイブエクスカリバーを取り出し、起動した。
[L-L-L-Load!!][Hopeful-Brave-Ballot-let!!]
[R-R-R-Reading!!]
[Awaken! Your Soul!! Rise up!! Your Bravery!! Gear of Hopeful Brave!!]
[R-R-R-Rising!!]
「おお、それは勇者の剣。いよいよと言う時に勇者も覚醒するとは良い兆候だ。だが…。」
ファーラが何か言いかけたが、その前にサリアはダイアルを回し、回復効果を起動した。
[C-C-C-CURE!!]
剣から溢れた光がファーラを包み込み、ユートの影が与えた傷を癒して行く。ドクドクと流れていた血は止み、
「ふぅ…助かった。礼を言う。だがその剣、もう随分壊れかけだな。」
ファーラの言葉に少し驚いた。これを知っているのか?と思ったが、よく考えたら彼は初代の勇者と一緒に闘ったのだ。知っていて当然だった。
「音声が壊れかけておる。昔はそうでは無かったぞ。」
「そうなの?」
「うむ。我は記憶力はいいのだ。どこかの年齢詐称バb…時の賢者と違ってな。」
彼は俺に向けて指を立てて「黙っていてくれ」のポーズを取った。仕方ない。ティアには黙っておこう。
「ゴホン…ともかく、その剣も何れ来るであろう戦いでは活躍する事になろう。誰かに直してもらった方が良いのではないか。」
彼の言う事は最もであるが、問題は誰に依頼するかである。シュミードにでも聞いてみようか。だが彼もヘルマスターワンドについては詳しく聞いてみた事があったが、お手上げのようであった。無理かもしれない。
しばし皆が考えに耽り、周りの爆発音だけが轟いた。その沈黙ーーーといっても爆発音の最中ではあるがーーーを破るようにファーモが鋭い牙を携えた口を開いた。
「まぁいい。それより、これで飛べる。そのロケットとやらに乗るがいい。我が運んでやろう。」
俺達は頷くと、ロケットに乗り、壊れかけのシートに腰掛け、辺りを見回した。機械がばちばちと火花を散らして、今にも火を吹きそうである。このまま座っている事に若干の恐怖を覚えるが、座っていないとそれはそれで危険である。俺は意を決してシートベルトを付けた。
「準備は良いか?」
壊れた壁からファーラの声が聞こえてくる。いいよと声を掛けると、ファーラがその腕でロケットを持ち上げたようで、浮遊感に襲われた。
「うぉっ。」
思わず声が出た。
そしてファーラの力強い翼の羽ばたきと共に、ロケットは空を舞った。
「うぉぉぉぉ…。」サリアは興奮したように言った。
「ひぃぃぃぃ…。」ハイは恐怖しながら言った。
「うげぇぇぇ…。」俺は余りに激しい動きに悶えた。
ファーラの飛行に伴う上下移動は激しく、俺の視界は大気圏突入時よりもガクガクと震え、そして気分が悪くなり、やがて限界を超え、俺の意識は薄れていった。
ああ、全く、ここに来てからいい経験ばっかりだなぁ、本当に。心からそう思うよ、畜生。
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