第565話【閑話 オリンピックは怖い?】

<<とある加盟星の青年カラムス視点>>

俺の名はカラムス。


王国の片田舎に住む農民だ。


田舎だって言っても、テレビも映るし、旅芸人も来る言わば辺境の都会って感じのところだぜ。


しばらく前からテレビでは朝から晩までオリンピック、オリンピックって大騒ぎしていやがる。


よく分からねぇが、とんでもなく大きなイベントみたいだな。


村長の話しでは、村の収穫祭なんて目じゃないそうだ。


もしかすると王都で開かれていると言う星王誕生祭よりも大きいんじゃないかって話しもある。


俺はもちろん王都に行ったことは無いが、村の次世代を担う俺の情報網は凄いんだぜ。



「オリンピックの予選会がハムシャの街であるそうだぞ。


カラムス、行ってみないか?」


隣の家のヤルマが声を掛けてきた。


ヤルマの奴、村長の息子だからって、俺よりも情報を持ってるなんて許せん。


まぁ、ヤルマも俺の情報網のひとりとして認定してやろう。


ハムシャって言えば、大都会じゃねえか。


王都には敵わねぇが、蟻塚の蟻みたいに人がいるって聞いたことがあるぜ。


自慢じゃねえが、俺は力自慢だ。


単純な力くらべなら、村の誰にだって負けやしない。


村長の話しじゃ、オリンピックでは力くらべもあるって言うし、いっちょハムシャの腰抜け共を圧倒して、俺様の実力を見せ付けてやろうか!


俺は将来この星一番の強者になる男なのだから。




「ヤルマ、当然行くぞ。お前も付いて来い。」


「偉っそうに。はいはい、一緒に行きますよ。」


俺とヤルマは子分を引き連れて、ハムシャの街へと、向かった。


ハムシャの街は歩いても1日程度の距離。


リュックには3日分の食料と、テントを詰め込んである。


ヤルマの話しだとハムシャには宿屋っうのがあって、お金を出せば寝る場所と食事を出してくれるらしいが、生憎お金は持っていない。


村じゃ自給自足か、物々交換が基本だからな。


それに、ハムシャにはボッタクリとか言う危険な怪物がいて、下手にお金を持っていたら、全て奪われてしまうらしいじゃないか。


そんな危険は目に会うなら、食事と寝る場所くらい自分で確保するのが基本だからな。


なんやかんやらで、予定通りハムシャの街に到着。


門番とひと揉めあったが、そんなことはどうでもいい。


「カラムス!この先でオリンピックの予選会をやってるみたいだぜ。」


2年前に王都からやって来たヨヒタが壁に貼られた紙を見て知らせて来る。


今回のメンバーで唯一文字の読み書きが出来る優秀な子分だ。


「でかしたヨヒタ。すぐに向かおう。」




その場所に着いて、俺達は啞然としていた。


石造りの巨大な建物が聳え立っていたのだ。


「さぁ中に入りましょう。」


ヨヒタは王都にいる時に同じような建物を見たことがあるみたいで、ひとりだけ通常運転。


頼れる子分だ。


ずんずん躊躇なく進んでいくヨヒタ。


おいおい、こんなにデカいところに入っていって大丈夫かよ?


中から割れるような大声が聞こえてくるじゃねえか。


ヨヒタの後を恐る恐るついていく俺達。


暗く硬い石畳のトンネルを歩いて行くと、前の方から明るい光が漏れているのが見えた。


歓声が割れんばかりに響いて、光に近付く毎に大きくなっていく。


そしてついに石畳のトンネルを抜けて光の中に飛び込むと、そこは……


何ということだ!


村の長老が話してた『地獄の谷』のような光景がそこにあった。


巨大なすり鉢状の大穴の縁に今にも落ちそうなくらいへばりついている人間達。


大声を張り上げている光景は、さながら地獄へ落とされまいと必死で叫ぶ亡者共に見えてきた。


恐ろしくて恐ろしくて身体が自然と身震いする。


ふと隣を見るとヤルマも同じように震えていた。


穴の底では、恐ろしい姿をした怪物同士が戦っている。


戦いの勝者がこの穴に落ちてゆく亡者共を喰らうのではないだろうか。


「下に行くよ。」


ヨヒタの声に我に返り、そちらを振り向くと、彼は下に降りていこうとするでは無いか。


村でも最弱に属するヨヒタなんて一瞬で...いや俺達が束になってもあの怪物の一体すら斃すことは出来ないだろうから、あまり関係ないか。


とにかく、ヨヒタを引き留め、その場を後にすることに決めた。


この一瞬の判断を誤れば、きっと俺達も亡者と一緒に奴らに喰われるに違いない。


慎重にゆっくりと後退る。奴らが気付かないように慎重にだ。


もちろん音を出すなんてありえない。


何か言おうとするヨヒタの口を押え、ついさっき出て来たばかりのトンネルに入る。


1歩、2歩、3歩...「走れ!!」


俺達は無言で走った。ただひたすら走った。


そして気が付けば、村に戻っていたのだ。




数週間後、俺達は村長の家でテレビを見ている。


第3回国際連合オリンピック シンゲン星大会の模様がそこに映し出されていた。


「今回初種目となるレスリングが面白いそうだ。」


大人達も集まって急遽広い庭に出されたテレビを大勢で囲んでいる。


「おっ、この星の代表が出るぞ!!」


「さすがに星の代表に選ばれるだけのことはある!あの屈強で凶暴な顔を見てみろよ!」


アップにされたその顔は、あの時見た地獄の怪物にそっくりだった。


1回戦、怪物は他の星の怪物に一瞬で敗れ去った。圧倒的な力の差だ。


俺達は震えるしかなかった。あれほどの怪物を一瞬で斃してしまう奴がいるなんて...


しかし驚くべきはそこで終わらなかった。


先程圧倒的な強さを見せつけた怪物も次の戦いではあっという間に敗れ去ったのだ。


「あーーあ、やっぱり駄目だなあ。宇宙は広いってことだな。

この星の最強種族であるリザードマンですらあの調子なんだから。しかもランクCでだろ。


こりゃランクAなんてどんな怪物が出てくるんだろうなあ。」


大人達の暢気な会話を聞いていた俺達は耳を疑った。


あの恐ろしい怪物よりも圧倒的な強さを持つ怪物がたくさんいて、しかもそれよりも強いレベルで戦っている奴らがごまんといるのだ。


この村を出るのは危険だ。


あんな奴らがうようよしてるんだからな。


ーーーーーーーー

とある星のレスリング地方予選の一幕です。


様々な種族が交わるこの星には人間に混じって最強種のリザードマンやドワーフ、オーガ等の亜人も共存しているようです。


ただ、カラムス君達の村には、たまたま人間しか住んでいなかったので、リザードマンを初めて見たのでしょう。


きっと国際連合加盟星のあちこちでこのような光景が見られたんだと思います。



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