第557話【加藤弥生 頑張ります8】

<<医学部教授シュワルツ視点>>

研究室で2週間後に迫った定期試験の問題を作っていると、学長から呼び出しがあった。


先日の白石元学長の葬儀の際に副学長以下10数名の教授が逮捕されたことで学内はまだ騒がしいが、大学自体は淡々といつも通り進んでいる。


医学部からも数名の教授が抜けてしまったため、そのしわ寄せは残ったわたし達に地味にのしかかっているのだ。


まあ、学内派閥が立ち消えになったのは有難いのだが。


「学長、シュワルツです。」


「ああ、シュワルツ君、入ってくれたまえ。」


「失礼します。お呼びでしょうか?」


「どうだい学内の様子は?」


「そうですね、結構な教授が捕まったり辞めてしまったりしたので、多少のしわ寄せは来ていますが、生徒達には動揺はあまり無いみたいです。」


「そうか、君達には苦労を掛けるな。至急補充を考えているから、もう少し頑張ってくれたまえ。」


「ありがとうございます。同僚達にも伝えておきます。」


「頼んだよ。それでだな、ここからが君に来てもらった理由のもなるのだが、


君に副学長になって欲しいんだ。頼めるかね。」


「えっ、わたしが副学長にですか?」


「そうだ、実はわたしもそう考えていたんだが、まだ君は少し若かったし、学内でのポジション的にも未だ早いかと思っていたんだが。」


「それがどうして?」


「実はね、白石前学長が亡くなられた後、彼女の遺言がいくつか残っていたんだ。


晩年のまだお元気だった頃に書かれたものなんだが、そのほとんどが、この大学の行く末を暗示しているものだったんだよ。


驚いたことに、この度の騒動も予言されていたんだ。


そして、教授の補充についても、国際連合の事務局に既に手配されていたのだよ。


副学長についても掛かれていて、あのふたりが共倒れすることも書かれていた。


そしてその後任に君の名前があったんだ。


どうだね、引き受けてくれるかね?」


「白石先生......」


学生当時、無気力だったわたしは、ひとりの少女と出会った。

そして彼女の死を看取ったわたしは、医師として生きていく決心をしたのだけど、その時に温かく見守ってくれていたのが、学長でもあり、医学部の教授でもあった白石弥生先生だったのだ。


あの時からわたしは彼女のような不幸な少女を救うため、悲しみに暮れるわたしを支えて下さった白石先生のために必死に勉強して、卒業後大学に残って医師の道へと進んだのだ。


あれから30数年の時が流れ、わたしも医学部の教授として拝命を受けているが、あの頃の志は忘れていないつもりだ。


そして白石先生のご恩に報いるためにも、このお話しはお受けしよう。


まだ若く、学内の人脈も薄いわたしだが、白石先生がこの大学を作り、そして育てて優秀な人材を多く送り出されたように、わたしもその意思を継げるように一生懸命頑張ろう。


「学長。このお話しお受けさせて頂きます。精一杯頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いいたします。」


「君ならそう言ってくれると思ったよ。わたしもこの機に引退しようかと思っていたんだが、君に学長の座を譲るまで後数年は頑張ることにするよ。


一緒に頑張って行こう。シュワルツ君。」


「はいっ、学長。よろしくお願いいたします。」


「良かった良かった。うんうん。


ところでシュワルツ君。少し気になることがあるんだが聞いてくれるかい。」


「はい、何でしょう?」


「白石学長は終生職員寮に住んでおられたのは君も知っているだろう。


実はこの遺言もその部屋から出てきたんだ。


入院されてからも、あの部屋は残してあったんだが、その間も清掃だけは続けさせていたんだよ。


遺言が見つかった机の上も清掃の際に気付いていてもおかしくなかったはずなんだけど、誰も見ていないって言うんだよね。


それが、あの騒動の後すぐに見つかるなんて。


まるで白石学長があの時本当に蘇って、あの部屋に遺言を置いたんじゃないかって。


ああ、ごめんごめん。今のは忘れて。


この科学の時代にそんなことがあるわけないよな。」



加藤弥生 頑張ります 編 完


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いつもお読み頂き有り難うございます。


2編にわたり、弥生ちゃんを主人公に書いてみました。


女子高生だった弥生ちゃんをイメージして、こんな調子なのかなあと考えながら書いてみたので、これまでと書き方が異なっていると思います。


感想を聞かせてもらえれば幸いです。



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