第550話【加藤弥生 頑張ります1】
<<白石弥生視点>>
…『月日は百代の過客にして行交う……………』
白石弥生です。
今、国際連合大学附属医科大学病院のベッドの上です。
月日の流れるのは早いものですね。
国際連合大学の設立に奔走していた頃が昨日のように思い出されます。
あれから80年ほどの時が過ぎ、国際連合大学から輩出した学生達は、各星の中枢を担うまでになりました。
学友というのは本当に良いものですね。
先進星の統一大統領が親友である発展途上星の革命家を助けてボロボロになってしまった星の立て直しに力を貸しているといった報道もちょくちょく目にする様になりました。
もちろん、国家元首としての打算もあるでしょうが、固く交わされた握手と、お互いに向かい合って微笑む顔に、学生時代の無邪気な顔をダブらせては涙ぐむわたしなのです。
「弥生さ~ん。元気にしてるー?」
イリヤ様が、来られたようですね。
「あっ、いいから、いいから、無理しちゃ駄目よ。」
ベッドから降りて跪こうとするわたしを制して、イリヤ様がわたしの元に来られました。
創造神マリス様と肩を並べ慈母女神として全加盟星から崇められているイリヤ様。
AHOを設立し、自ら先頭に立って各星を襲う伝染病を撲滅していくだけでなく、国際連合大学医学部では教壇にも立ち、数多くの優秀な医師を育てた、生きる女神様です。
「弥生ちゃん、体調はどうなの?
弥生ちゃんもわたし達みたいにもっと寿命を貰えばいいのに。
未だ、やり残した想いもあるんじゃないの?」
やり残した想いですか…
無いといえば嘘になるかも。
わたしったら、国際連合大学の学長になったのに、自分の学生時代は高校一年生で終わってるんです。
歳を重ねる毎に学生生活を謳歌する学生達を羨む気持ちも無くなってしまいましたが、こうして人生の終わりが近付くと、ふと寂寞の念に駆られてしまう時があります。
「もう一度、学生時代に戻って青春を謳歌することですかね~。」
思わず口に出してしまいました。
「良いわよ〜。そんなことぐらいお安い御用よ。」
頭の上で聞き慣れた声が聞こえました。
「マリス様!」
「弥生ちゃん、あなた初めて自分の気持ちを出したわね。
良いわよ。若返って新しい人生をやり直してみる?
弥生ちゃん、すっごく頑張ったんだから、そのくらいの願いは当然だわ。
ねえ、イリヤちゃん。」
「そうよ、弥生ちゃん。
あなた永遠の生命は嫌だって言ってたけど、やりたいこと、やるべきと思うことをやろうと思えば、いくらでも時間は必要よ。
まぁ、抵抗があるのは分かるけどね。
でも慣れてみたら結構良いものよ。」
ニコリと微笑むマリス様とイリヤ様。
「いくわよ!」
マリス様が手を挙げると、淡い光がわたしを包み込みます。
そして、身体が軽くなったと思ったら、10代のあの頃に戻っていたんです。
体操部で鍛えていたあの頃の筋力も戻ったようで、するりとベッドから降りることが出来ました。
さっきまでは、腕を挙げることすら難しかったんですよ。
「はいっ。」
イリヤ様が手鏡を渡して下さいました。
高校生時代と同じ顔、姿が写っています。
涙が溢れて止まりません。
「さあ、弥生ちゃん。
第2の人生はどうする?
希望を言ってくれたら、何でも叶えちゃう!」
マリス様がいたずらっ子みたいにウインクしながら言って下さいました。
「わたし、国際連合大学に入りたいです。
もっといっぱい勉強して、友達も作って、それから、それから……………」
溢れる涙で言葉は続きませんでした。
「オッケー、じゃあ来月がちょうど入学式にあたるから、ラスク星の王族枠で追加しておくわね。
それでいい?」
「はいっ!」
「じゃあ、初代学長の白石弥生は今日でおしまい。
明日からはラスク星の王族で、国際連合大学の新入生、加藤弥生よ。」
こうして、近々安らかに終わるはずだった白石弥生の人生は、新たに加藤弥生として、再起動することとなったのでした。
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