第548話【教育が必要です4】
<<白石弥生視点>>
白石弥生です。国際連合大学設立に向けて相変わらず忙しい日々を送っております。
マリス様やランス様、そしてイリヤ様のご協力に感謝しつつ、設立に邁進する所存です。
さて、教会、医薬品業界と順調に協力者が集まってきております。
本日の面談は、おや学校関連ですね。大学と名乗っておりますが、実のところ大学院を中核としたシンクタンク的な要素を持つ国際連合大学。
研究費も充実しているとなれば、その研究成果の恩恵を受けたいところのひとつとして当然学校が挙げられます。
最先端の技術や理論を取り込みたいとか、有力な進学先として生徒を集めたいとか、思惑はそれぞれですが、当然我が方にもメリットがあります。
本来なら各星の巨大企業に奪われていまう、優秀な学生を引き入れることも出来るのです。
数多くの学部を予定していますし、中には企業運営に直接関係無い専門課程も作ることになっています。
優秀な学生が、企業のしがらみで潰れてしまう前に、有効利用出来るように、育てて行きたいと思っています。
少し感情的になってしまって、申し訳ありません。
わたしも召喚前は超巨大企業の歯車として潰されてしまった経験があるものですから。
のびのびと自分のやりたいことを見つけてもらい、好きなことを仕事に出来れば良いですよね。
企業側としても、しっかりとした考え方と広い知識を持った卒業生の方が、ミスマッチも少ないのではないでしょうか。
今日は、3組の大学関係者が来ているようです。
その内の1校は、マサル様がラスク星に設立された内のひとつでした。
「本日は貴重なお時間を頂き有難うございます。
わたくしラスク星のマサル共和国立大学のスズキと申します。」
「この度国際連合大学の設立に関わらせて頂いております白石です。」
「白石さんとおっしゃると…」
「やはり鈴木さんも、日本からの?」
「はい、わたしも加盟星のひとつに召喚されました。
異世界防衛連合軍に参加したことが切っ掛けでランス様からお声を掛けて頂きまして。
元々大学の准教授をしておりました関係で、今の職場にお世話になっております。」
「マサル様にお会いになられたことは?」
「ええ、大学に奉職する時に一度。
大学の創立時の経緯だとか、その当時の状況をお聴きしました。」
「今はマサル様もあまり姿をお見せにならないようですが、大学をお作りになられた当時はかなり精力的に活動されておられたのでしょうね。」
「ええ、当時はマサル様もラスク星の召喚者として、1国を治めておられたそうです。
そして偶然にも他の星との繫がりが出来たことで、それまでラスク星のみの存在でしかなかった国際連合を他の星にも拡げることになったそうなのです。」
お茶にひと口付けた鈴木さんは話しを続けられます。
「そして異文化との今後の交易に際し、ランス星の皆さんに、もっと幅広い知識を持ってもらうために、自らの国に大学を設立し、優秀な人材育成を始められたそうです。」
「その後の話しはわたしも聞いています。
マサル様が作られた大学から育った優秀な外交官や商人が異世界の国々相手に対等以上の成果を上げるのをみた他国の王も見習って大学を設立し始め、マサル様がラスク星の統一王になると、それは全国に拡がったとのことですね。」
「ええ、その通りです。
今でもマサル共和国立大学は『始まりの大学』として各国から師事を仰がれておりますし、昨今では他の星からも助言を求める人が絶えません。」
「わたくし達もマサル共和国立大学を始めとする加盟星の有力大学とは協力体制を作っていきたいと考えております。
それには鈴木さんのような地球人の方が入って頂くのは大歓迎です。」
わたしの言葉に鈴木さんは少し困ったような表情をされて質問されてこられました。
「失礼ですが、白石さんも地球のような星を目指されて…」
「いえ、逆です。今の地球のようにならないようにしなくてはと、思っています。
そのためにも、地球の現状をよく知る地球人、いや日本人が必要なのです。」
わたしの言葉に鈴木さんの表情が明るく変わったのが分かりました。
「わたしも同じ意見です。
良かった、白石さんと共感できて。」
「わたしもです。マサル様の出身地であり、数多くの召喚者により、加盟星の文明に色濃い影響を齎している地球、いや日本。
あの豊かな文明を望む声は大きいのですよ。
だけど、既に2世紀近く停滞し、老いて無くなることを待つだけの文明だと言うことを知るものは少ない。
それが地球からの召喚者であっても。」
鈴木さんは何も言わずに手を差出してこられました。
私も右手を差し出し熱く握手を交わします。
その日の夜は、少し高揚した気持ちのまま鈴木さんとの出会いに感謝しつつ、同じ志を持つ同士が他にも現れることを願いながら更けていくのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます