第544話【異世界保健機構(AHO)9】

<<サーミス視点>>

本部から来られたリリス様と共に訪れた最後の集落。


そこはあの男性の住んでいた集落でした。


残念ながら、彼の息子さんは亡くなっておられました。


でも、リリス様の説得により救える命もあったのです。


正直に言います。


最初リリス様のあまりにもへりくだった態度に、わたし達は、苛立ちを隠せなかったのです。


早く薬を飲ませなきゃ。

早く栄養のある食事を取らせなきゃ。


そんな思いに囚われていた、わたし達からみてリリス様の行動は無責任に見えたのです。


でも違ったのです。


間違っていたことに気付いたのは、あれほど頑なに我々を受け入れようとしなかった村長が軟化して、リリス様の言葉に従うようになったからでした。


そうです。


『してあげよう、してあげなきゃ。』


これはわたし達の傲慢なのです。


患者に接する度に感謝されることに馴れすぎて、いつの間にか患者さん達を下に見ていたのかもしれません。


わたし達の言うことが正しいのだから従いなさい。


これは傲慢以外の何ものでもありません。


安心して治療を受けられる時は、患者さん達も治療する側の傲慢を受け入れて下さるかもしれません。


でも集落が全滅するほどの危機状況に長時間晒された時にはどうでしょう。


最悪の場合、彼等は自ら死を選んてしまうことも有りうるのです。


村長の置かれた状況と心理を見定めた上で、あくまでも村長の目線で語り掛けることが出来るリリス様は、真のナイチンゲールと呼ぶに相応しいと思ったのです。




<<イリヤ視点>>

王都の感染状況は全て確認を終えられたと思います。


まぁ、魔法を使ってベスト菌が存在しないことを確認したんですけどね。


やっぱり心配なんですもの。


今度病原菌発見用の魔道具をお父様に作って貰おうっと。


それはそれとして、リリスさん達が向かった集落。


多くの犠牲者はありましたが、想定していた最悪の事態は免れたようです。


さすがはわたしが見込んだリリスさんですね。


こちらに帰還してからはすっかりスミット星のナイチンゲール達に、懐かれたようで、今日も皆さんに頼まれて様々な伝染病についての特別講習をされているようです。


彼女は勉強熱心で、その辺りの知識も豊富なので、良い講師になっているようですね。


さぁ、この星も一段落しましたから、わたしはひと足お先に本部へと戻りましょうかね。




異世界保健機構(AHO) 編 完



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いつもお読み頂き有難う御座います。


今回はWHO(世界保健機構)を題材にしてみました。


ちなみにAHOのAはAnother Worldの頭文字です。


昨今パンデミックに対する対応の拙さや特定国への過度な忖度等、何かに付けて問題視されているWHOですが、国連組織として本来の機能を遺憾なく発揮して頂きたいものですね。


それでは引き続きお読み頂けることに感謝を。

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